「全宇宙が私の敵になっても、キルヒアイスは私に味方するだろう。実際、いままでずっとそうだった。だから私も彼に報いてきたのだ。そのどこが悪いのか」
ラインハルトの熱さに、義眼の参謀長は冷静さで応じる。
「閣下、私は何もキルヒアイス提督を粛正しろとか追放しろとか申し上げているのでありません。ロイエンタール、ミッターマイヤーらと同列に置き、部下の一員として待遇なさるように、と、ご忠告申し上げているのです。組織にナンバー2は必要ありません。無能なら無能なりに、有能なら有能なりに、組織を損ねます。ナンバー1に対する部下の忠誠心は、代替の利くものであってはなりません」
「わかった、もういい。くどく言うな」
ラインハルトは吐き出した。彼にとって不愉快だったのは、オーベルシュタインのいう事が理屈としては正しかったからである。それにしても、この男のいう事は、なぜ、正しいのに相手の感銘を呼ばないのだろう。
(解説)
オーベルシュタインがナンバー2が不要と言っているのは、ラインハルトの組織において、と言う意味で理解した方がいい。世の中の大組織には、概ねナンバー2がいるものだ。会長がいれば、社長がナンバー2であろうし、社長がナンバー1であれば副社長がナンバー2であろう。仮にナンバー1が指揮をとれなくなった時には、ナンバー2が組織の指揮を執るわけだから、いなければ困る。
ラインハルトの組織は、もはやラインハルト個人のものではない。キルヒアイスは幼馴染であったし、他の連中とはどうしても線引きせざるを得ない。それが、他の将校に対して、必ずしも良い影響は与えない、ということが、ナンバー2不要論の本質である。確かに昔からの間柄で、いきなり、他の連中と同列に扱うというのは、容易なことではない。もう一つのオーベルシュタインの懸念材料は、ナンバー1に絶対的な権限を与えるためにも、ナンバー2を作るな、ということでもある。しかし、この点については、ラインハルトの絶対的なカリスマ性を、キルヒアイスが持っているわけでもなく、また、キルヒアイスは自分の立ち位置をわきまえているから、問題にはならない。
しかし普通の組織であって、ナンバー2をナンバー1に代わって担ぎ上げようという動きは起こりえないとも限らない。その点に関する懸念という事である。
(教訓)
〇リーダーに絶対的な権限を与える必要な時期や組織はある。そのときにナンバー2はある時点では不要と言える。
〇ナンバー2不要論は一理はあるが、通常は必要である。
〇ナンバー2が必要か否かは、組織による。