「・・・つまり卿は、ミッターマイヤー少将の生命を救うのに、私の力を借りたいというのだな」
「さようです、閣下」
「代償は?」
「ミッターマイヤー及び私の忠誠と協力。加えて他の下級貴族や平民出身の士官たちの明望。以上でご不満ですか?」
・・・
「それにしても、卿がそれほどまでして僚友を助けたい理由は何だ?何が卿に危険を冒させる?」
「彼は気持ちのいい男です。ああいう男が一人いなくなると、その分、世の中から生気が失せてしまいます」
・・・ただ問題となるのは常に忠誠心だった。
「もし私が断ったら?」
「そうは思いません」
「私にとっては卿らの好意よりブラウンシュヴァイク公の歓心の方が、良い買い物のように思えるのだがな」
「本心でおっしゃっているとは思えません」
「卿は現在の、ゴールデンバウム王朝についてどう思う?」
ロイエンタールの姿勢がわずかに変わった。彼もそれを理解したようだった。
「5世紀に渡った、ゴールデンバウム王朝と言う老いさらばえた身体には、膿が溜まり続けてきたのです。外科手術が必要です」・・・
「よくわかった。ロイエンタール少将。私は全力を挙げて、卿とミッターマイヤー少将の期待に応えさせてもらおう」
(解説)
ビジネスの話があったら、損得だけで考える癖があってはならない。普段はいいのだが、一緒に仕事をしたいと思わせるビジネスパートナーに出会ったときには、損得以上の関係を築いた方がお互いのためである。
仕事に対する姿勢については、確認をしよう。ラインハルトはロイエンタールがミッターマイヤーを救いたい気持ちについて聞いている。金とかメリットだなんてそぶりが見えたら、その後は話をするまでもない。
そして、部下とするならば、忠誠心があるかも確認する必要がある。結局ロイエンタールは地球教の陰謀に嵌められて、ラインハルトを裏切る形にはなってしまったが、それはさておき、相手の本心を曝してくれるかどうかがポイントである。この時代から考えれば、ゴールデンバウム王朝への反逆は死罪であろう。この本心をいざと言う時には、弱みとしても使える。ラインハルトがロイエンタールが叛乱の意志ありと、皇帝に伝えることもできる。自分の一番弱い所を話させる、敵を明示させる、その敵が共通の敵であること、それが忠誠心の裏返しともいえる。
(教訓)
〇ビジネスパートナー候補は損得だけで考えるな。
〇仕事に対する姿勢、共に目指すところが共通かを確認せよ。