同盟軍の損傷率は戦闘続行可能の限界に達した。
第二艦隊司令官パエッタ中将は、幕僚たちに順次、意見を述べさせたが、挙手した者は全て退却を主張した。彼らにはまだ健全さが残って落ち、敗色の濃い戦いに固執して全てを失っても良いとするような狂言者は一人もいなかった。ヤン・ウェンリー准将は沈黙していたが、司令官に指名されると、こう答えた。
「軍人が逃げて恥になるのは、民間人を見捨てたときだけです。後日の再戦を期して逃げるのは、いささかも恥ではありません。敗北を隠し、敗因の分析を怠たる方が、よほど恥でしょう」
総司令官ロボス元帥は全軍に退却命令を出した。
「わが軍は、不法かつ非道にも、わが軍領域に侵攻せる専制国家の侵略軍に対し、善戦してその帰途を挫折せしめるをえたり。よって、抗戦の目的を達したからには、この上、無益なる戦闘において将兵の生命を損なうの要なしと認め、全軍をもって帰還の途につくものとなす・・・」
(解説)
撤退には、敗北以外の理由が必要だ。そこで、ヤンは、「民間人を見捨てないなら、軍人は逃げても恥ではない」「負けっぱなしにならず、再戦する気があるなら恥ではない」「敗北を隠し、敗因の分析を怠った方がよほど恥だ」と言った。
それに対するロボス元帥の言葉だが、この艦隊には民間人はいないだろうから民間人を見捨ててはいない。次に再戦する気はないわけではないだろうが、明確ではない。さらに、無益な戦闘で、兵士の命を無駄に損なわないとの判断はよしとするが、負けを認めていないし、おそらく敗因の分析を行う気にはならないだろう。一番の敗因は、ヤンがラインハルトの取った戦術、核融合ミサイルを活用して自然の力を利用することを進言したが、見向きもしなかったことである。諸々考えると、50点以下と言ったところだろう。及第点には満たない点数だ。
経営者の言葉に直せば、仮に会社がこけた、あるいはこけつつあるとき「経営者が逃げて恥になるのは従業員や関係者を見捨てたとき、後日の復活を期して、今回、撤退するのは恥ではない。失敗であることを認めず、失敗の要因分析を行わないのが、よほど恥だという事だ。」
その失敗の要因分析を行っても、経済状況が悪いだの、妨害が入っただの、自分の責任ではないと言う経営者がいるが、これは早く縁を切ろう。自分に責任がある、そして次はミスを犯さないために、具体的に何を改善する。それが言える経営者でなければ、ついて行く必要性を感じない。
(教訓)
〇経営者が逃げて恥になるのは、従業員や関係者を見捨てたとき。
〇経営者が、後日の復活を期して、撤退するのは恥ではない。
〇失敗を認めず、失敗の要因分析をしない経営者は恥である。