「しかし、だからと言ってローエングラム侯につくべき理由があるのかね、ヒルダ」
「あります」
「どんな?」・・・
一つ。ローエングラム侯ラインハルトは新皇帝を要しており、皇帝に背く者を皇帝の命令によって討伐するという大義名分を有している。これに対し、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム公の陣営は野心むき出して私戦を行おうとしているにすぎない。
二つ。いずれ大部分の貴族を結集するブラウンシュヴァイク公らの兵力は強大であり、そこにマリーンドルフ家が参加しても軽く扱われるであろう、それに対し、ローエングラム陣営は劣勢であり、そこに参加すれば勢力が強化されるだけでなく、政治的効果もある。ゆえにマリーンドルフ家は厚遇されるに違いない。
三つ。ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は一時的に手を結んだだけであって、協力する意思に欠ける。何よりも、軍の指揮系統が統一されていないのが致命的である。それに対し、ローエングラム陣営は統一された指揮系統と意思の下に動いている。・・・
四つ。ローエングラム侯ラインハルトは門閥貴族の出身ではなく、主だった部下たちもそうであって、平民階級の人気が高い。両陣営の兵士は、全て平民である。士官だけで戦争はできない。それどころか、貴族出身の士官に対して兵士が反感を募らせた結果、ブラウンシュヴァイク公らの陣営において兵士の暴動や造反が生じ、内部崩壊する可能性すらある・・・。
(解説)
ラインハルト側につくか、ブラウンシュヴァイク側につくか、迷っていたときに、娘が父親にラインハルト側につく理由を説明した。ネタバレをすると、将来のラインハルトの嫁さんであって、勝ち馬に乗った人である。
何を持って勝つか負けるかというのは、それぞれ価値観が違うから何とも言えないが、権力を握るとか大金持ちになる、ということを勝ちと仮定すれば、一般人が勝者になれる確率は相当低い。もちろん自分が勝ち馬になれる才能と運があれば別だが、99.99%の人は、勝ち馬に乗るのが一番楽な生き方である。
当然のことながら、誰が勝ち馬になるかを見抜く能力があるかどうかではあるが、さすがにラインハルトの将来の嫁さんだ。いいポイントをついている。理由の如何を問わず、大義名分を持つこと。ここでは皇帝を囲い込んでいるが、この辺は三国志の曹操と同じであろう。曹操は漢の皇帝を囲い込み、大義名分を持つことに成功している。
二つ目も大きい。つまり大企業に入っても出世できるかどうかわからないに近い。それよりも将来有望なベンチャー企業に参画して早々と役員になった方が出世は早い。当然の事、そのベンチャー企業が上手くいけばである。大抵うまくはいかないのだが・・・。
さらには統一された指揮命令系統にある、あるいは従業員から慕われている、その点も勝ち馬になれるポイントと言えよう。
(教訓)
〇成功する一番楽な方法は、勝ち馬に乗ることだ。ナンバーワンになれなくても、ナンバーツーでいいじゃないか。運や才能に恵まれなくても、成功できる。
〇できるかぎり小さな組織で早く出世して、組織を大きくした方が早い。
〇やはり従業員から慕われている社長の方が、勝つ組織になれる。