ラインハルトのベッドを整えに来たエミール少年が、敵将ヤン・ウェンリーを非難した。逃げ回って堂々と戦わないのが卑怯だというのである。金髪の若い独裁者は、微笑みと共に美しい頭を横に振った。
「エミールよ、それは違う。名将というものは退くべき時機と逃げる方法とをわきまえた者にのみ与えられる呼称だ。進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、猟師の引き立て役にしかなれぬ」
「でも、公爵閣下は、今まで一度もお逃げになったことがないではありませんか」
「必要があれば逃げる。必要がなかっただけだ」
(解説)
物量で大差があれば、それと闘おうとするには策が必要だ。子供から見たら卑怯者なんだろうが、それはヤンには酷というものだ。
ラインハルトは、「名将というものは退くべき時機と逃げる方法とをわきまえた者」であり、「進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、猟師の引き立て役」と、子供相手に諭している。
進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、よくブラック企業にお見受けする。ノルマを課して、そのノルマを達成するために、「契約取れるまで帰って来るな」、あるいは「契約を取って来るか、ここから飛び降りるか」までいう。いわゆる進むことと闘うことしか知らぬ猛獣と言う奴だ。常に、どんな経済状況に陥っても、攻めればいいと思っている。そして、何人死のうとしったことではない、位な気持ちなのだろう。もっとも、誰か死ねば、間違いなく労基はやってくるが、確かに、案外人間はブラック企業で働いていても、そう簡単には死なないものだ。
本当に営業のことを良く知っている人は、押し時、と引き時を心得ているだろう。マーケットの状況を見れば、押し切ってもいいことはないときがある。動いて損しかしないときもある。株式のマーケットに目を向けると、下げ相場の時に、株式を売りまくり、上げ相場の時に、株式を買い増すごときである。何もしないときが、いいときもある。もちろん、従業員をある程度か抱えていれば、ある程度のノルマが達成できなければ、会社の存続にかかわることはわからんでもない。
売れないときは、売り方、商品やサービスに問題があるわけだから、一歩立ち止まって、よく考えろ。根本的に見直せ。
ときには、財務力でキャッシュフローを整備して、耐え抜き、攻め時に一気に戦力を投下せよ。事業(営業)力、財務力の両輪で会社を支えればよいと考えろ。
(教訓)
〇事業には攻め時と、引き時がある。
〇押してもダメなときは、何もするな。動くだけ無駄だ。無駄なことをさせるな。
〇事業力と財務力の両輪で会社を支えろ。どちらか一方だけに依存するな。