「どうだ、フロイライン・マリーンドルフは、やはり予の親征に反対かな」・・・
「本心を申し上げれば反対です」
「フロイラインは意外に頑固だな」
「陛下はとうに私の性格をご存じであると思っておりました」
いささかフェアでないのではないか、とヒルダは思う。彼女が今でも親征に反対なのは、政治的あるいは軍事的な理由からではなく、親征の真の動機が、ラインハルトの個人的な矜持と競争意識にあることを、知っていたからである。
「・・・それでさえも、予には物足りぬ。どうせなら対等の戦略的条件で、あの魔術師と渡り合ってみたいものだが・・・」
(解説)
イゼルローン要塞をヤンに再奪取され、ヤンと直接対決をするため、ラインハルトは帝国軍のほぼ全戦力をたかが一つの要塞攻略のために用いた。ヒルダは、ラインハルトが前線に立つことに反対であった。ラインハルトはヤンを艦隊戦で倒すということに意地を張っているに過ぎなかった。
その癖、対等の戦略的条件で戦ってみたいというのだから、陛下のわがままにみんな組織が付き合わされているようなものである。ヒルダは、そうであればなおさら、ヤンに力を付けさせて空にすればいいじゃないですか、とはっきり言ってしまう。ある意味では、強者の余裕でもある。
組織であれば、上司の命令はいかなる理由があろうとも絶対服従である。それが嫌ならば、その組織から去るしかない。銀英伝の世界と違って、我々の世界にはいくつもの組織があって、いくらでもリーダーを変えられる。もっとも変えた先のリーダーが自らが仕えたいと思うかは別の話である。
ラインハルトの立派なところは、命令をしたものの、本心を思いの通り言わせてあげることだろう。「本心を申し上げれば反対です」。これも言えない組織が多い。社長の意見に対しては、そのほとんどが、「(本心を申し上げれば反対ですが・・・)異論ありません。」まあ、こんなところだろう。ヒルダの言い方も参考になる。結局「本心は反対ですが、あなたの命令には従います。」と言っているわけだから、組織的には何の問題もない。本心を語らせるだけ、ラインハルトは素晴らしいリーダーと言えるのだ。
(教訓)
〇リーダーに対して本心を言える組織にせよ。