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勝つためには手段を択ばず

「イゼルローンから前線へ輸送艦隊が派遣される。敵の生命線だ。お前に与えた兵力の全てを上げてこれを叩け。細部の運用はお前の裁量に任せる。」
一礼して踵を返したキルヒアイスを、ラインハルトは急に呼び止めた。不審そうに振り向いた親友に、若い元帥は言った。

「勝つためだ、キルヒアイス」
彼は知っていたのだ。非占領地の民衆を餓えさせることで敵の手足を縛るという辛辣な戦法に、キルヒアイスが批判的であることを。

「キルヒアイス提督が叛乱軍の輸送部隊を撃滅すると同意にわが軍は全面攻撃に転じる。その際、偽の情報を流す。輸送部隊は攻撃を受けたが無事だ、と。それは反乱軍が最後の希望を絶たれ、窮鼠が猫を噛む挙に出ることを防ぐためだ。と同時に、彼らにわが軍の攻勢を気付かせないためでもある、むろん、いつかは気づくだろうが、遅いほど良い。」

(解説)
イゼルローン要塞が同盟に奪われ、同盟軍が帝国内に進行する際に、食糧を帝国軍が持って去り、同盟軍の食糧事情を悪化させた。いわゆる焦土作戦であるが、輸送を絶つことで、同盟側に大打撃を与える作戦を敢行することにした。そしてその作戦の重要な役目、一番卑劣な役目を親友に任せた。

そして上司としても、親友としてもキルヒアイスの事を理解しているために、メンタル的なフォローをしたと思われる。それが「勝つためだ、キルヒアイス」の一言である。これでキルヒアイスもラインハルトの気持ちが十分に分かったに違いない。

戦争においては、きれいごとでは済まないこともある。当然、ビジネスでもきれいごとばかり言っていては、上手くいかないこともある。やむを得ないときにやむを得ないことをする。そのために、上司と部下がお互いの心情を慮る気持ちがなければならない。

また、敵に対しては、自分たちの予想の及ぶ範囲に彼らの行動をとどめるために、「窮鼠猫を噛む」ような状況を、伝えないという作戦である。パニックになると、管理不能になる。これは組織においても同じではなかろうか。部下にパニックに陥らせてはいけないのだ。その点、知らせるべきでないことは知らせるべきではない。情報の管理もまた重要である。

(教訓)
〇やむを得ないことをする場合、上司も部下も真意を一つにせよ。そして相手を慮れ。改めて目標を徹底させよ。
〇敵も味方も、決して「窮鼠猫を噛む」状況になるべく押しやるな。押しやるときには情報管理を徹底させ、少しでも気づくのを遅らせよ。気づいたときにはもう手遅れで、諦める以外何もできない状態にせよ。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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