装甲擲弾兵オフレッサー上級大将は、40代後半の巨漢で、たくましい骨格を、引き締まった力強い筋肉が包んでいる。闘牛士に挑発された牝牛のように、力感と戦意にあふれた男だ。
「一対一でオフレッサーと出会ったら、卿はどうする?」
「すっ飛んで逃げるね」
「同感だ。あれは人を殴り殺すために生まれてきたような男だからな」
ロイエンタールとミッターマイヤーの会話である。彼らは射撃や白兵戦技にかけても一流の男たちだが、それだけに人間離れしたオフレッサーのどう猛さを知っていた。逃げても恥にならない相手という者は、確かに存在するのである。・・・
八時間の間に、ラインハルト軍の装甲擲弾兵は九回にわたって第六号通路に突入し、九回にわたって撃退された。
巨漢はロイエンタールとミッターマイヤーに躍りかかった。その瞬間オフレッサーの巨体が縮んだ。床が陥没したのだ。オフレッサーは脇腹のあたりまで巨体を床に埋め、・・・
陥し穴だった。
「猛獣を捕えるには罠が必要と思ったが、見事にかかったな。」
「卑怯者!」
「褒められたと思っておこう」
(解説)
賊軍にものすごく強い兵士がいた。まともにやっては勝てないから、頭を使って、床を陥没させて動けないようにし、捕えた。「卑怯者」ではあるが、命の方が大切だ。勝つために手段を選ぶ必要もなく、ましてや相手の得意な戦法で勝負を挑む必要はない。
ビジネスは、まさに異種格闘技のようなものだ。ルールに則っていれば、非難される理由もない。しかし、もう一つ、異種格闘技というルールではなく、自分の得意な分野に引き込んで勝負することも認められている。例えるならば、Jリーガーがどんな手を使っても、野球においてプロ野球の選手と試合をして勝てなくとも、野球の選手にサッカーのフィールドで、サッカーで勝負すれば勝てるだろう、という事が認められているといってよい。力勝負を仕掛けようとするから、大企業には全く勝ち目がないのだ。
(教訓)
〇自分の得意分野で勝負を仕掛ければ、勝てるチャンスは大きくなる。
〇わざわざ相手の土俵で相撲を取る必要などない。勝負に来た競合がいたら、こちらのベースで、こちらの地の利がある所に誘い込めばいいだけの話である。相手の強みとこちらの強みを分析せよ。