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無謀な目標は立てるな

皇帝ラインハルトを会談のテーブルに引きずり出すことが、最初からヤンの戦略の帰結点である。・・・
ヤン自身も幕僚たちも、民主政治の精髄を守って最後の一兵まで玉砕する、という思想はない。生き残ってローエングラム王朝から政治的妥協を引き出す。そのためには勝たなければならない。・・・
「専制主義との妥協などありえない」等と、彼我の力関係もわきまえず絶叫して自滅へ直進するような「正直者」はヤン艦隊の幹部にはいなかった。

ただ、無邪気にそれを信じ込む幸せさは、彼らの環境と現在のところ無縁であった。罠と見るべきではないか、との疑惑が基調とならざるを得ない。・・・
「会見だの講話だのを口実としてヤン提督をイゼルローン要塞から誘き出し、謀殺するつもりではないか」
会議の出発点となったその意見は、ムライ中将から発せられた。彼が敢えて常識論を述べ、反論や疑念を引き出す、一種の科学実験のような趣がないでもない。

(解説)
既に崩壊した同盟はなく、同盟から逃げ出したヤンらと帝国軍の戦力差は、到底覆らないものであろう。それで喧嘩を売っても、普通は勝てるわけがない。それ故、落としどころは、あくまでも皇帝ラインハルトと会談をして、民主主義の制度や理念をどこかに残す、という政治的妥協点を見つけることだった。そのためだけに勝つということだ。別にラインハルトを皇帝の座から引きずり下ろすとか、帝国をこの世から消す、そんな大それた目標ではない。

既存の勢力をひっくり返すとか、世の中を変えるという目標を立てる人はいる。別にそれを問題視するつもりはないが、そのような経営者に共通する点が、ゼロ・百という考え方である。このサービスが広がれば、我々はマーケットを抑えられる。それで、広がれば百、広がらなければゼロなのだ。世の中に、現状で受け入れられるサービスを売っていく、と言う発想がない。それまではどのようにして生きていくかと言うと、資金調達、つまり出資や融資だ。しかしながら、いつまでたっても売れないものを開発しようとしても、投資家だって限界がある。将来、上場するなり、あるいは利益の配当で投資分を回収したいところだが、全くその気配がない。つまり、そのような経営者はゼロ・百だからだ。自分のサービスが受け入れられるか、受け入れられないか、だけしか考えていない。そんなことよりも、今は食べていけることで食べていく、と言う発想を持った方がいい。今、自分たちの能力でできる最大限のところを目指した方がいいのだが、ゼロ百経営者は、自分のことを世の中を変えられる天才だと思い込んでいるから始末が悪い。あるいは、神から選ばれしもの、かな。

さて、組織には、常識論しか言わない、そういった奴も必要だ。つまり、組織のブレーキ役である。もっともブレーキ役が効きすぎて、組織が止まってしまってはならない。ブレーキ役もアクセルを踏みすぎて、速度オーバーしたときに、ゆっくりさせるのが役目だ。崖があったら止めるのも役目かもしれないが、会社にとっては、崖が見える前に、急カーブをさせるよう仕向けるべきである。急に止めるのではなくて、崖を回避するのがブレーキ役の本来の役目だ。何でもかんでも止めればいいと思っているのでは、ブレーキ役ではない。単なる邪魔者である。いるんだな、こういう文句しか言わない奴。本人はお目付け役と言っているが、そういう役がいた会社で上手くいったためしがない。

(教訓)
〇ゼロ・百、つまり、受け入れられるか、受け入れられないかの二つの選択肢だけで物事を考えるな。
〇ブレーキ役は速度オーバーしたときにゆっくりさせるか、あるいは急カーブを曲がれるように仕向けるのが役目だ。組織を停止させるのであれば、単なる邪魔者だ。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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