「よき艦を戴いたことに感謝に耐えぬ。陛下にそうお伝え願いたい」
ラインハルトの声に、このときは礼儀や打算を超える熱がこもった。使者の某男爵はうなずき、証書を渡すと「楽しみにしていますぞ」とささやいて帰っていった。奇妙な言葉の意味は、キルヒアイスの説明でとけた。
「ラインハルト様、旗艦を皇帝より戴いたときは、使者の方に何か謝礼の贈り物をするのが慣例だと聞きました」
「贈り物をか?」
「ええ、現金ではわいろになりますから、美術品ですとかを。それで初めて、その人の旗艦たることが周囲に認知されるそうです」
ラインハルトは灼熱した。そんな筋の通らぬ話があるか、使者に買ってもらったわけではない、と、つい大声を上げてしまったが、キルヒアイスは冷静だった。
「筋が筋として通る社会ではありません。だからこそラインハルトさまは変革を志されたのでしょう?一男爵ごときを相手に小さな筋を通されるより、筋の通る社会をつくるため、ここはこらえてください」
(解説)
第三次ティアマト会戦の活躍によって、ラインハルトはブリュンヒルトを皇帝から献上された。それで風習として、使者に対して、贈り物をするらしい。ラインハルトからしてみれば、くだらない風習である。なんで使者からもらったわけでもないのに、その使者に対して贈り物をしなければならないのか。皇帝と言うならばわからんでもないが。
キルヒアイスは大人である。「筋が筋として通る社会ではないから、変革を志したのでしょう」と。
だいたい、お中元だのお歳暮だの、年賀状だの、傍から見るとバカにしか見えない。恐らくそれを会社で取り扱っている総務の人に対して、なんでそんなことするのと聞けば、間違いなく、風習ですから、いつものことなのでとなるだろう。こんなこと業者を儲けさせる以外にどんな意味があるのだろう。ただ、まだこんなものは可愛いものだろう。
どんな業界にも筋が通らないことがたくさんある。むしろ、そんな無駄なことを解消することがビジネスのヒントになると思った方がいい。小さな筋よりも、大きな筋を自分で構築し直した方がいいのだから。
(教訓)
〇無駄なことにビジネスのヒントが隠されていることが多い。
〇大きな筋を通すために、小さなことは曲げろ。