ヨブ・トリューニヒトが皇帝に仕官を請願してきたのである。
かつて自由惑星同盟において国防委員長と最高評議会議長を歴任した彼は、祖国の敗亡に重大な責任を免れ得ぬ身であった。・・・
「トリューニヒトは、それほど官職が欲しいか。では、望み通りくれてやる。ロイエンタールも旧同盟領の事情に精通した行政官が補佐に欲しかろう」・・・
「陛下、まさか・・・」
「新領土総督府高等参事官。あの男に似合いの官職ではないか。旧同盟の市民が奴に石を集中させればロイエンタールも助かる」
「何もそのような人事を敢えてなさらずとも、辺境の惑星で開拓事務にでも従事させれば、よろしゅうございましょう。」・・・
「承知しただと?」
自分から仕掛けた結果であるのに、ラインハルトは深刻な不快感を覚えずにはいられなかった。彼は明らかにトリューニヒトの羞恥心の質と量を誤解していたのである。・・・
「どの面下げて、奴は自分が売った国に戻るというのだ。奴の神経は巨大戦艦の主砲の砲身より太いらしいな」
「陛下がご決定あそばしたことです」・・・
トリューニヒトが承諾してしまうと、それは単なる子供っぽい失敗でしかなかった。・・・
(解説)
ラインハルトにしてみれば、トリューニヒトの旧同盟領への赴任は、半分冗談だった。通常の感覚であれば、自ら売国した国に対して、恥ずかしくて帰国できないと思っていたが、恥ずかしくもなく、ハイネセンへの赴任を希望してきた。どこまで厚顔無恥なんだ、ということになるが、皇帝の命令である。もはや変えようがない。
トリューニヒトは、銀英伝の世界において、もっとも恥ずべき民主主義のリーダーと言う扱われ方をしている。まあ、どこぞの国では、最も恥ずべき民主主義のリーダーが長年その地位にいる(た?)という笑い話が続いている。正直なところ、まともな神経ではリーダーにはなれないのではないか。厚顔無恥は総理大臣になれる者と、なれない者の資質の違いの一要素に違いない。
少なくとも、会社の経営者は、どんな状況でも、人事を遊びで行うべきではない。困るのは結局リーダーそのものになる。
(教訓)
〇特に人事に関しては、リーダーは遊び心を持つな。