「これは困った。一流の戯曲が一流の劇として完成を見るには、一流の俳優が必要だそうだが、卿の演技はいささか見え透いていて興味をそぐな」
「これは手厳しいおっしゃりようで・・・」
ボルテックは恐縮したように笑った。だが、彼が仮面を脱がなければ手袋さえはずしてはいないことを、ラインハルトは知っていた。
「どうやら言い直した方がよさそうだな・・・皇帝を誘拐して、フェザーンに何の利益があるのか、とそう訊いているのだ」・・・
「おどろきましたな、そこまでお見通しでいらっしゃいましたか」
ボルテックは、・・・敗北を認めるように吐息した。・・・
「私どもフェザーンの自治政府は、ローエングラム公が全宇宙を支配なさるにつき、その偉業に協力させていただきたいと考えております」・・・
「それにしても、その協力の第一歩が、門閥貴族の残党共に皇帝を誘拐させることだというのは、いささか説明を要するのではないか」
ボルテックは一瞬ためらったようであったが、手持ちのカードを開示して見せる必要を、この時は認めたのであろう。率直な口調を作って話し始めた。
(解説)
ラインハルトと、フェザーンのボルテックの会話である。
7歳のゴールデンバウム皇帝の誘拐がフェザーンの計画であることをラインハルトは知っていたが、その計画を一流と褒めている。しかし目の前のボルテックに対しては一流の俳優ではない、と、少々意地悪している。それは本音を吐かせるためである。中々本音を吐かないものだから、ストレートに質問を変えた。こういう時もはっきり聞いてしまった方がいい。相手に全てを知られたとき、人は観念する。例えは悪いが、犯罪者が、検察に全ての証拠を並べられた時に、それ以上白を切るわけにもいかないといったところだろうか。「お前の悪事は全て知っている。証拠もすべて持っている。」と伝えることによって、反論を許さない。
交渉事で優位に立つためには、相手の提案してくる内容について、全て見透かしていることが重要であろう。見積書を上げてきたときに、相見積もりを取れば十分だが、その価格提示に対して、一式を分解させると、どこで相手がぼっているかがよくわかる、その点をついていけば、撤退するかもしれないが、相手に妥協させることにつながる。
要するに、あなたの手の内は全てお見通しということを、きちんとした情報とロジックで伝えるのだ。良い条件を勝ち取るためには、相手との情報戦に勝つ必要がある。
(教訓)
〇相手の手持ちのカードを全て出させるにはこちらは全てを見透かせ
〇良い条件を勝ち取るためには、相手との情報戦に勝利せよ。情報収集を相手以上に行え。