盛大な歓迎式典において、ヤンはわずか二秒で挨拶を済ませた。「ヤン・ウェンリーです、どうかよろしく」感動的な熱弁を期待していたらしい一万人の参列者は落胆したが。そんなものはいずれ実績が補えばよいのである。・・・
「ヤン提督、我々の新たな政府には、新たな名称が必要であると思いますが」
「はあ、当然ですね」
「そこで、明日にも正式に発表したいのですが、自由惑星同盟政府という名称は如何でしょう。」
精神的に三歩ほどヤンはよろめいた。ジョークだと考えたいところだが、無論そうではないことは明白だった。即答しないヤンをロムスキーはやや不安げに見直した。
「気に召しませんか」
「そうです。第一、正当政府と言う名は縁起が悪い。銀河帝国正当政府と言う近来の悪例があるではありませんか」
ダスティ・アッテンボローがヤンの心境を察して援軍を出し、それはロムスキー医師の心理的波長と共鳴したらしい。確かに不吉ですな、他の名称を考えましょう、と革命家はうなずいたが、やや残念そうであった。
「この程度でうんざりしないで下さいよ、ヤン提督。将来もっと高い山が出て来るに決まってるんですからね」
(解説)
実績のない人間は、弁論でごまかさなければならない。実績のある人間は簡単な挨拶だけでいい。結果だけが大事だ。
ロムスキーがヤンに語り掛けていた。名前を決めるというのである。さて、信用金庫が全く信用できないのと同様に、正当政府というのは全く正当ではないようにしか思えない。名は体を表すという言葉もあるが、どちらかというと、名前は真実を隠すためのものでしかない。実態は異なるのだが、名称がそうだと、そう思ってしまう。その名前に騙されている奴は多かろう。傍から見ると笑える。名前だけで評価する、いわゆる、その本質を見極められない人たちだ。政党名を見ると、大抵内容は真逆だと思っていれば間違いはない。
アッテンボローが、「この程度でうんざりするな。将来もっと高い山が出てくる・・・」と言っているが、企業経営も同じこと、うんざりする事や難問が次々を押し寄せる。それにいちいち反応してはならない。物事はだんだんひどくなる。あるいは一つの物事が片付いたら、その後もっとひどいことが現れる。
(教訓)
〇経営者は言葉や夢でない、態度と成果で示せ。
〇物事はどんどんひどくなる、あるいは別の難問が押し寄せるから、気にするな。都度解決せよ。