「まあ、今だから言うが、私の任務はヤン提督の引き立て役だったんだ。いや、そんな表情をしなくていい、別に卑下したり不平を鳴らしたりしているわけではないんだから・・・」・・・
「ヤン提督は、指揮官としての資質と参謀としての才能と、両方を兼備する珍しい人だ。あの人にとって参謀が必要だとすれば、それは他人がどう考えているか、それを知って作戦の参考にするためだけのことさ」・・・
「だから私としては、エル・ファシルの英雄に参謀として望まれたとき、自分の果たすべき役割は何か、と考えて、すぐには結論を指せなかった。それがでたのは、イゼルローン陥落以後だ。で、私は役割をわきまえて、ことさら常識論を唱えたり、メルカッツ提督に一線を引いて対応したりしたわけさ。鼻持ちならなく見えた点もあろうが、わかってもらえるかな」
「はい、わかりました。でも、どうして、そんなことを僕に話してくださったんです?」
「そう、なぜかな。あまり論理的ではない言い方になるが、君には、他人を信頼させる何かがある、ということだろうかな。恐らくヤン提督も他の連中も、君には色々なことを話していると思う。そういうところを、君は大事にしていくことだ。きっと今後の財産になるだろう」
(解説)
ユリアンが、イゼルローンを離れて、フェザーンに赴任するにあたり、各所にお別れの挨拶をしていた。上記は、ムライ少将との会話である。
ネタバレにはなるが、ユリアンは、ヤンを引き継いで、指導者となる。ヤンの愛弟子ということもあったのだろうが、「他人を信頼させる何かがある」「何でも話しやすい」からに違いない。
経営者は、何となくハードルが高くて、恐れ多い気がする。大組織の社長は、そうなのだが、話をかける方が、勝手に壁を作っていることもある。
当然、経営者の中には厳しい人もいるが、根本的に、人世話な人も少なくない。話をしてみると案外気さくな人も多いものだ。
経営者の方としては、自分から壁を作るのはよそう。心理的な壁を作らないために、わざわざ社長室をやめてしまった人すらもいる。
何でも話せる人の方が、人間的にも信頼できる。というか、人間的に信頼できるから話しやすいともいえる。
(教訓)
〇経営者は、従業員との間に、自ら壁を作るな。
〇話しやすい人が、信頼される人である。経営者が目指すは話しやすい人だ。