「一億人・百万隻体制」
その言葉が、帝国軍首脳部の周辺においてささやかれるようになったのは、帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム公の苛烈な「宣戦布告」が自由惑星同盟と「帝国正当政府」に対して叩きつけられて以後である。「武力による懲罰」が明言されると、軍籍にない平民階級の青年たちが、職場や学校から各地の軍隊の徴募事務所へ駆けつけるようになったのだ。・・・
「壮大な数ではありますね。ですが、本当にそれだけの動員が可能なのかな」・・・
「まあ、量的には可能だろう。だが、有機的に運用するとなれば、また話は別だ。第一、補給の問題がある。一億人を食わせるのは、容易なことではないからな」
「考えるのは簡単だが、実行するのはな」
ミッターマイヤーが受けた。前線にあって、しばしば補給の遅延や途絶に悩まされた彼らは、机上の計算だけで戦争の運営ができるものではないことを知悉していた。生産の計画のみ達成されて輸送の計画が欠けていたため、放置されて腐敗した食糧の山を見たときの怒りと無念さは表現しがたい。食糧不足のため、せっかく築いた拠点を放棄して帰還しなくてはならなかった彼らだったのだから。
(解説)
「一億人・百万隻体制」とは、帝国軍が同盟側へ大規模な軍事攻撃を行う際に、国内に対して発した、ラインハルトのスローガンである。
目標を立てると、組織はそれに向かって動き出す。今の組織にとって、普通にできることはスローガンにならない。組織を成長させたければ、今の組織の力量を考えつつも、相当飛躍的な目標数値を立てる必要がある。
ここで重要なのは飛躍的であっても、現実的という考え方だ。例えば、国民が8000万人しかいないに、一億人と言ってみたり、今十万隻くらいしかないのに、突然百万隻というのは、今の組織の力量を全く把握していないただの馬鹿野郎である。
当然力量を把握しつつも、いつもと同じ準備でできてしまうようなことではならない、これが難しい。不可能ではないが、相当な創意工夫が必要だと部下に思わせることでないとならない。経営者は机上の空論を言ってはならない。それは単なる布団の中で見ているべき夢でしかない。
(教訓)
〇経営者は組織の力量を十分に知って置け。
〇経営者は机上の空論を言うな。論理的に、組織を背伸びさせるスローガンを立てよ。