「ケスラー、私に罪を詫びるより、卿の責務を果たすことだ。陛下を帝都よりお出しするな」
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「モルト中将、明日の、いや、既に今日だな、正午に卿への処分を通知させる。それまで執務室で謹慎し、身辺を整理して置け。思い残すことのないように・・・」
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他のものを下げて、ラインハルトは美しい秘書官に声をかけた。
「フロイライン、何か私に言いたいことがあるようだが」
「私は先日、申し上げたことがあります。フェザーンが工作員を送り込んでくるとしたら、目的は恐らく誘拐であり、その対象も特定できる、と・・・」
「ああ、憶えている」
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「で、フロイラインの結論は?」
「私は思います。ローエングラム公は、フェザーンと手をお組みになり、わざと皇帝を誘拐させたのだと、違いますか?」
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「ただ、今少し正確を期するなら、奴らと、フェザーンと手を組んだわけではない。奴らを利用するだけだ。奴らに何も約束してはいない」
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「では、自由惑星に対して、大規模な軍事行動を起こさせるおつもりですのね」
「そうだ。だが、それはとうに定まっていたことで、時機が多少早まるというだけのことでしかない。しかも、りっぱな大義名分ができることになる」
「モルト中将を犠牲になさるのも、その壮大な戦略の一環ですの?」
(解説)
皇帝の誘拐と言う情報を得つつも、部下にはその情報を伝えていなかった。その結果、モルト中将は自決し、命を失ったが、人が死んでもラインハルトは淡々としていた。
経営者が従業員を犠牲にして、高い役員報酬をもらっていたら、反吐が出るが、まあ、従業員の自殺だのなんだので、殺された奴は少なくはない。
それでも大組織を維持するためには、必要な犠牲とも言えなくはないが、部下から何と言われようとも、淡々としているのもまた、経営者に不可欠な資質なのだろう。小さな犠牲をいとわずに大きな利益を求めていく姿勢、と言い換えれば、間違いではないはずだ。
(教訓)
〇経営者は小さなことにこだわるな。大きな利益を取りに行け。
〇部下にごちゃごちゃ言われても、どっしりと構えよ。