「イゼルローン要塞にいるヤン・ウェンリー提督を呼び戻してはいかがでしょうか」
・・・新任の総参謀長チュン・ウー・チェンが提案すると・・・
「ヤン提督の知略と、彼の艦隊の兵力とは、わが軍にとって極めて貴重なものですが、このような状況下で彼をイゼルローンにとどめておくのは、焼き立てのパンを冷蔵庫の中で硬くしてしまうようなものです」
・・・「それは貴官の言う通りかもしれんが、ヤン提督はイゼルローンで帝国軍の別動隊と対峙している。うかつに動ける状態ではないぞ」
・・・
「・・・彼に、イゼルローンを放棄するよう命令しろというわけかね」
「いえ、司令長官閣下、具体的な命令は必要ありません。ヤンに訓令すればよいのです。責任は宇宙艦隊司令部全体で取る、最善と信じる方策をとるように、とね。恐らくヤンはイゼルローン要塞を守ることにこだわらないでしょう。」
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幼帝エルウィン・ヨーゼフを帝国首都オーディンから連れ出し、現在は正当政府事務次官の職にあるランズベルク伯アルフレットは、幼帝とゴールデンバウム王家に対して揺るがぬ忠誠心を抱いていたが、心情だけでなく頭脳も多分に韻文的な彼は、王家を守護するための具体的な方策を見出し得ず、心を痛めるだけであった。
(解説)
前半は、フェザーン回廊から帝国軍が進軍してくることに対して、ヤンを戻すべきだとする積極論と消極論で同盟の参謀が議論をしているところである。新任の総参謀長の大胆な意見では、重鎮の意思決定を求めることが不可能であるから、実績もあり、皆が信頼しているヤン本人に決めてもらえばいいのでは、と結論付けている。もちろん責任は経営者が取る、といったところだ。
後半は、幼帝をオーディンから連れ出し、亡命政府を立てたアルフレットであるが、どうしたらいいかわからないのでアタフタしている。リーダーとしては情けない態度だ。
本来経営者は自ら、考えて、意思決定をし、行動をとる必要がある。時と場合によっては、信頼しうる人間にその意思決定を任せることも必要であろう。しかし、アタフタしているだけでは、何も改善しない。ただ、こういう経営者は多い。どうしましょう、あたふたあたふた。お前が決めずに誰が決める。
(教訓)
〇経営者は自ら考え、行動せよ。
〇経営者は、意思決定を部下に依頼したときは、最終的な責任も取れ。