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買収先の再生は中長期的戦略を立てろ

生粋の軍人であるミッターマイヤーは、経済にそれほど造詣が深いわけではなかったが、日常生活レベルでの経済運営を統制したところで、一利なく百害あるのみという事は知っていた。銀行も封鎖されず、商店も営業しており、市民たちはひとまず安どの胸をなでおろした。帝国軍に対する敵意は別として、彼らは生活していかねばならず、生活するには、より良い経済的環境の存在が望ましかったのだ。

その一方で、ミッターマイヤーは軍司令官として布告を発し、正当な理由なく商品の価格を上げ、また売ることを拒否するものは厳罰に処することを明言した。布告が出されて一時間後に、多くの店が作ったばかりの新しい価格表を旧いものに変えた。フェザーン人の商魂のたくましすぎる部分も、ミッターマイヤーの速攻に敗れ去ったようである。

接収済みの高級ホテルに臨時の元帥府を置いたラインハルトは、まず、フェザーン人が今日まで保証されてきた数々の市民的権利は、帝国軍の進駐によっても何ら損なわれるものではないことを宣告した。彼の望みは、帝国本土と自治領との緊密な一体化である、とも述べたが、これは嘘ではない。

(解説)
まず、第二段落を見てほしい。コロナショックで、転売ヤーがいろいろ買い占めることで、正当な理由なく商品の価格が上がったことは記憶に新しい。「新しい価格表を旧いものに変えた」という速攻。政府もこれくらいやってほしかったものだ。

さて、M&Aで、企業買収を行ったとき、新しい経営陣は、さっそく人員削減に走り出そうとする。それしか、バリューアップの方法を知らないからだ。しかし、いわゆる占領軍が入り込んできたときに、首になるかも、給料が下がるかも、と思わせたら、モチベーションが一気に下がる。それこそ企業再生どころではなくなってしまう。優秀な人の退職が進み、どちらかというとあまり使えない人が残ってしまう。

まず占領軍がやらなければならないことは、従業員を安心させることだ。もちろん経営陣の粛清はかまわない。彼らが能無しだったから、事業が上手くいかなかったことは明白だ。

それゆえ、まずは普段通りの仕事ができるような環境整備の方が先である。今までの権利は基本的に保証する。あくまでも買収会社と、被買収会社の顕密な一体化が、望みだと言い切ろう。もちろん中長期的な再生計画において、人員数が多いと判断したら、徐々に辞めてもらったり、給与の削減をお願いしたりはやむを得ない。変化はドラスティックであってはならない。かえって崩壊を早める。

(教訓)
〇新経営陣は買収先の従業員をまずは安心させろ。まずは変わらないといえ。
〇買収先の再生計画は、中長期的戦略で行え、ドラスティックに変化させても失敗する。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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