ラインハルトさまが階梯をひとつ上るたびに、自分も引きずり上げられる・・・キルヒアイスは軽く身慄いした。自分に才幹がないとは思わないが、栄達の速度が普通でないことは確かであり、それが自分の実力ばかりによるものだと思ったら大変なことになるであろう。
「良い上官とは部下の才幹を生かせる人を言うのです・・・」
(解説)
式典における、キルヒアイスの心情と、キルヒアイスに近づいてきたオーベルシュタインの一言である。
ラインハルトとキルヒアイスはいわゆる幼馴染であって、ラインハルトが出世街道に登っていったために、キルヒアイスも順調に出世していったわけだが、そのスピードは、奇跡に近かった。キルヒアイスも優秀には違いないのだが、そもそも優秀だけで出世の階段というのはスピーディーには登れない。自分の実力以上に何らかの形で評価されなければならない。後は、役職が人を鍛えるのだ。だから、出世したい人にとっては、勝ち馬に乗って、チャンスを掴むのが一番早い。
そして、その出世を、自分の実力だと思わないことである。ときの運でチャンスを掴んでしまうことがある。それは自分の実力で勝ち得たのだと、普通の人は思う。だがそれは根本的に間違っている。運が良かったのだ。そう心がけておけば、実力のメッキがはがれるということはない。常に実力ではない、運だと思い続けることが重要だ。そうすれば、決して気を緩めることはなく、さらに高見を目指そうとする。実力でここまで来たと思っている人は、今まで努力をしてきた、そして才能の結果だと思うから、それ以上自分を高めようとしなくなる。そうすると、後は何かのきっかけで落下することになる。より大きくなりたければ、全ては運だと思うことである。
結局のところ、自分の力だけではなく、上で引き上げてくれる人が必要だから、まさに「良い上官とは部下の才幹を生かせる人」になる。組織は人材を生かしてナンボ。それはリーダーにかかっている。自分の組織のパーツだと思い込み、何が何でもその組織の部品として適しているように使っているうちは、組織は大きくはならない。その才幹を見極めて、組織にどう接ぎ木していくか。要するに活動エリアを広げていくわけだが、そのような見極めがあってこそ、会社は無限に成長する組織になり得るのだ。
(教訓)
〇上手く行っても、実力だと思うな。運と思え。そう思っているうちは大きくなる。
〇リーダーは部下の才能を組織と言う箱に入れ込むな。組織を幹として、枝葉として接ぎ木していくのだ。部下を組織に合わせるな、組織を部下に合わせろ。そうすれば、組織は成長していく。