「帝国軍は不世出の皇帝と多くの名将を擁している。彼ら全員にとって、イゼルローン回廊は狭すぎる。吾々の活路はその狭さにある。せいぜい利用させてもらうことにしよう」
ヤンの声は自信に満ちているというより、淡々と事実を説明しようというたぐいのものである。そしてそれが勝利は既定のものであるという思いを、部下たちの胸に根付かせる。ヤン・ウェンリーが魔術師の名で呼ばれる所以は、この信頼感を、彼の死に至るまで持続させた点にも求められるであろう。古人のエピソードを登用して、彼の部下たちは彼らの司令官に対する信頼を、ジョークに仕立てたものだった。
「ヤン提督の最高の作戦はどれだろ思う?」
「決まっている。この次の作戦さ」
(解説)
物事を仮定で論ずる経営者は多い。従業員は仮定などどうでもいい。こうすればそうなる、というが本当にこうすればそうなるのか、なぜこうすればそうなるのか。だから、仮定で物事を論じてはならない。事実だけを淡々と語るべきである。
ヤンの言葉には何一つ、仮定がない。全て事実だけである。例えば、ここで店を開けば、客が来る、と言うのはあくまでも仮定である。この場所は、駅からの動線になっており、人通りが多い、そしてこの人は、当店の顧客ターゲット層が多い。認知させるだけの看板がある。認知させることができなければ、通行人に対して、チラシや割引券を手渡して誘導する。ここまで来れば、淡々と事実を語っているということになるだろう。
もちろん部下は、上司の実績に対して、信頼をする。この店主が今まで、飲食店を責任者として運営したことがないというのであれば、不安にもなる。
また、ヤンのすごさは、最高の作戦は次の作戦と思われているという事だ。過去形になってしまったら、それは過去の人なのだ。次の作戦こそが最高の作戦だ、と言われれば、常にうならせる作戦を展開しているという事だ。これは経営者にも言える。最高の店はどこだろう、と言って、それは第一号店です、では終わっているのだ。常に、次の開店する店こそが最高である、と部下に言わせるように、常に新鮮さを与え続けなければならない。部下にとって、新鮮だという事は、お客にとっても新鮮であることを意味している。決して今までがひどいから、次がよりよいとは言われないようにしないとならない。
(教訓)
〇空想でなく、事実を人は信じる
〇経営者は次が最高と常に思われるようにせよ。