ラインハルトが置かれた状況を、ヤンは分析してみた。彼にとって、最低限の条件というものがあり、それにそって布石してくるに違いないのだ。分析し整理した結果はこうだった。
一、 ラインハルトの兵力は門閥貴族連合と戦うのに精いっぱいである。
二、 従って二正面作戦は不可能である。
三、 一及び二の条件により、同盟に対しては武力より謀略をもってあたるべきである。
四、 謀略は敵を分裂させ、互いに抗争させることに真髄がある。
これだけ段階を踏めば、ラインハルトのうってくる策がヤンには洞察できた。同盟を内部分裂させる。
(解説)
帝国側では皇帝が崩御し、後継争いがあり、ラインハルトと門閥貴族の内乱が起きようとしていた。そのときに、同盟側から帝国へ攻撃があれば、ラインハルトといっても二つの敵と戦うことは不可能である。そこで、ラインハルトは同盟側でも内乱の種をまいた。それが捕虜交換であった。ヤンは、皇帝の崩御、ラインハルトと門閥貴族の内乱と言う情報を得ていて、さらにこのタイミングでの捕虜交換、という事象から、同盟側で起きえることを推測した。
大抵、敵からのアクションなり、通常と異なる動きが社会にあったときには、いくつかの情報と事象を合わせて徹底的に頭を働かせて、その裏の動きを観察すべきだ。それが誰かの意図か、意図でないかはともかく、社会全体の流れを高い精度で予測することができる。
もちろん、情報に誤りがあるかもしれないし、そもそもその推測が間違っているかもしれない。あとは、その人の思い込みで、推測のプロセスを誤るかもしれない。往々にして、人は自分にとって都合の悪い情報に見てみぬふりをして推測のプロセスを誤ってしまう。願望が推測に入ってしまってはならない。
自分が思い込みが激しいと思っていたら、そうでなくてもそうだと思い込んだ方がいい。そして、両面から考えてみるといい。自分にとって都合のいい立場、これは自然にそう考えるだろうから、敢えて自分にとって都合の悪い立場からも考えてみるといい。後者の場合、本当に馬鹿な奴らだ、といって、通常は彼らの言論すら封殺しようとする。これはいけない。客観性を欠いた時点で、推測にバイアスが出る。
政治と異なり、ビジネスは徹底的な客観化が必要になる。それは自分が望むと望まざるとにかかわらず、自分のポリシーと同じか違うかはどうでもいい。ケインズの美人投票であって、自分の好みがみんなが選ぶ美人だと限らないのと同じことだ。ビジネスの場合は、客観的に推測しなければ、一歩人に先んじて稼ぐことなどできない。自分の尺度で間違っているか正しいかはどうでもいい。
(教訓)
〇経営者は、自分のポリシーで物事を見るな。
〇敢えて自分とは真逆の立場になって推測してみよ。