突然、光芒が視界を水平にないだ。雨音を圧して、人々の叫びが響いた。瞬間の緊張は、ラインハルトの名を呼ぶ明瞭な声でとけた。味方が駆け付けたのだ。狼狽の気配が走り、不規則にも水を跳ね上げる音が立つ。不利を悟った敵が逃げ散り始めたのだ。別の水音がラインハルトたちに近づいてきた。
「ご無事でしたか。ミューゼル大将」
その声は、既にラインハルトの記憶集に定着している。金銀妖瞳の青年仕官、オスカー・フォン・ロイエンタールのものだった。彼の左右に、部下の兵士らしい半ダースほどの人影が見えた。
「絶妙なタイミングだったな」
ラインハルトの声は苦笑交じりだった。彼がウォルフガング・ミッターマイヤーを救ったときもそうだったが、間一髪の事態がどうも多すぎるようだ。叶うことなら、今少し楽な戦いをしたいものである。
「閣下が姉君の安全を気遣っておいでだったように、私たちは閣下の安全に注意を払っておりました。それだけのことです」
(解説)
アンネローゼやその同行者、そしてラインハルトとキルヒアイスが、ピアノ演奏コンクールからの帰宅時、車に乗っているところを何者かに襲われた。アンネローゼの車の運転手はその攻撃によって死亡する。
敵の襲来を想定していたからこそ、ラインハルトやキルヒアイスはアンネローゼに同行し、対応できた。しかし多数の敵に囲まれている。その危難を救出したのが、ロイエンタールやミッターマイヤーとその兵士たちであった。ラインハルトは、彼らの救出を「絶妙なタイミング」と称するが、ロイエンタールは、ラインハルトの安全に注意を払っていただけだという。
ビジネスにおいても、普段からスタンバイの気持ちを持っていれば、どんな突発事項があっても、大事にはならずに済む。どのようなリスクが起きるかも、事前シミュレーションがあればなおよい。リスクが顕現化したときは、焦るもの。焦りがさらに被害を増大させる油になってしまう。火が起きたら消化、地震が起きたら非難。顧客クレームへの迅速な対応しかり、問題を先送りにすればするほど、被害はひどくなっていく。
スタンバイは、事前準備だけでなく、心の準備もしておくと良い。スタンバイできている人材は、部下からも重宝がられる。
(教訓)
〇部下は特に上司の仕事に対する注意を払っておけ。
〇突発事項に対応するためには、事前準備の他、心の準備も必要である。焦りが被害を拡大させることにもなりかねない。