提督たちにオーベルシュタインは説明した。一種の倒錯した心理だが、ラインハルトは心の中で大物の犯人を求めている。キルヒアイスがブラウンシュヴァイク公の部下だったアンスバッハ等に殺されたという事が耐えられないのだ。キルヒアイスは、もっと巨大な敵に殺されたのではなければならない。従って、アンスバッハを背後から動かした大物が必要になる。そんなものは実在しないが、作り上げればよいのだ。
「ふむ。だが、誰を首謀者に仕立てるのだ。大貴族共はほとんどが死に絶えてしまった。適当な人間がいるか」・・・
「帝国宰相リヒテンラーデ公」・・・
「リヒテンラーデ公は、遅かれ早かれ、排除せねばならぬ。それに彼の心が天子のように正常であるはずもない。彼は彼でローエングラム侯を排除する陰謀を巡らしているに違いないのだ」
「まるきり冤罪ではないというわけか。確かにな。あの老人は陰謀家だ」
権力はそれを獲得した手段によってではなく、それをいかに行使したかによって正当化される。
(解説)
オーベルシュタインの提案をラインハルトが拒絶していれば、キルヒアイスは死なずに済んだのだ。それでラインハルトはしばらく立ち直れていなかった。
しかし将校としては、リーダーには立ち直ってもらわなければならない。どう考えても悪魔だが、キルヒアイスの殺害をアンスバッハと言う小物ではなくて、いずれ排除しなければならないリヒテンラーデ公、ちなみに彼は今回最初からラインハルト側についてはいるのだが、どこかで裏切るのだから、今ついでに消してしまえ、と言う計画だった。
権力に絡むと、冤罪と言うのはあるものだ。我々一般人は、司法は公平になんて思っているけれども、そんなものは幻想でしかない。この件を深彫りすると一冊の本がかけてしまうから、横において置き、リーダーがミスをしたときには、スタッフレベルのミスとは異なるから、そのミスをコストと考え、より大きなリターンにできるかどうかを考えてみよう。優秀な部下は、そのおぜん立てができるかどうかである。
本来、ミスは自分で取り返すべきだが、リーダーがしっかりしているときには、そのミスは勉強と割り切ることができる。そして、そのミスが従業員の給料に響かない限りは、という条件付きではあるが。
結果として、ラインハルトはキルヒアイスが自分を守ってくれるという誓いを果たしてくれた代わりとして、自分はキルヒアイスに対して、宇宙を手に入れること、失ったものの大きさを思えば、その程度のことは手に入れる、と誓ったのである。
(教訓)
〇リーダーのミスを取り返すには、そのミスをコストと考え、どのようなリターンに結びつくのかを考えてみよう。一般スタッフよりもそのミスのコストは大きくならざるを得ない。従って、リターンも当然大きなことを期待することになる。
〇ミスが単なる授業料と言うだけでは足りない。損して得取れになる方法を後付けで良いので見つけよう。