「フレーゲル男爵、ブラウンシュヴァイク公よりの伝言をお伝えします。今少しの自重を望む、とのことです」
フレーゲル男爵の顔の中で、いくつかの表情が目まぐるしく後退した。・・・
「どうも御見苦しい所をお目に欠けました。この不祥事をご内聞にしていただければ、ミッターマイヤー提督の獄中での安全は、わが主人の名に懸けて保証させていただきます」
「卿の名は?」
「アンスバッハ准将と申しますが、それが何か?」
「・・・いや、一つだけ尋いておきたい。今の伝言は真実、ブラウンシュヴァイク公からのものか」
「おっしゃる意味がよくわかりませんが・・・」
「卿の才覚で、この場を収拾めるために創作したのではないか、と言っているのだ」
「どのような根拠でおっしゃることかは存じませんが、いずれにしても、無益な流血が回避されたのは幸いなことです。そうはお思いになりませんか」
(解説)
ミッターマイヤーが獄中で看守やフレーゲル男爵にいびられているときに、ラインハルト、キルヒアイス、ロイエンタールがやってきて、ミッターマイヤーを助け、彼らがフレーゲルに銃を向けた。そのときに、アンスバッハ准将がやってきて、その場を収めた。フレーゲル男爵もブラウンシュヴァイク公からの伝言であれば従わざるを得ない。そのおかげで血なまぐさい現場にならずに済んだ。
ラインハルトは、それが本当にブラウンシュヴァイク公の伝言だったのか、その場を収めるためのアンスバッハの機転だったのかと尋ねると、どこまでも大人だ。「どのような根拠でおっしゃることかは存じませんが、・・・無益な流血が回避されたのは幸いなこと」。状況から考えれば、「ブラウンシュヴァイク公」の名前を使って、アンスバッハが機転を利かせたと、ラインハルトは判断したわけだ。その後、アンスバッハもラインハルトの部下になる。
自分の判断で機転を利かせる者が、組織に必要だ。一々、上司にこれどうですか、あれどうですかと聞いていたら、上司としても判断しきれない。それに間に合わないこともある。その機転も、上記場合では、事実を言ってしまえば、安っぽい。そこで誇らない姿勢も重要だ。
(教訓)
〇無用な争いごとは極力抑えよ。
〇上司の判断を仰がず、その場で機転を利かせる人材を組織に登用せよ。