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大丈夫というキーワードを上手く使え

彼の名声の出発点となった「エル・ファシル脱出行」のとき、ヤンは21歳のそれこそ青二才でしかなく、民間人の有力者に脱出計画の成算を執拗に疑われた。ヤンとしては、彼一人の胸に温めている奇略を他人にもらすわけにはいかず、「大丈夫です」と、文明発祥以来の安直な台詞を繰り返すだけで、積極的に説得しようとはしなかった。精神的な波長や価値観の異なる人々に自分の思考を理解させるということが、彼には面倒でたまらず、その点においてヤンは政治的人間としての資質を全く欠いている。

「嫌いな奴に好かれようとは思わない。理解してくれない人に理解される必要もない」

(解説)
大丈夫とは、危険や心配がなく安心できること、間違いなく確かなことを言う。ちなみにここでいう「丈」とは、長さの単位であり、一丈は3.03メートルだが、周尺では、1.7メートルで成人男子の身長に当たる。そして「夫」は男性のことを表し、中国では成人男性を「丈夫」と言い、立派な男子のことを「大丈夫」と言った。この言葉が日本に伝わったときに、立派な男子、という意味だったが、そこから非常に強い、しっかりしている、健康であることや、間違いない、確かであるという意味でも使われるようになった。副詞的な意味で使われるようになって、確実に、だけでなく、「多分」というニュアンスも含んで用いられるようになった。

ビジネスの世界でも、部下に近況報告を求めると「大丈夫です」と言う言葉が帰ってくるが、それが本来の意味での「確実である」のか「おそらく」と言う意味なのかは、不安になる言葉である。ただ、現状を事細かに説明するのも面倒だし、説明できないときもある、それはエル・ファシル脱出行のように、奇略であって、口外できない場合も含む。

相手を安心させるために使うこともある。ごまかすためにも使われるかもしれない。自分もある店舗を経営していて、不動産のオーナー(と言うか管理者)から、常に大丈夫ですか、と言われていたが、自信をもって「大丈夫です」と言い続けたものだ。ちなみに毎日、売上を報告する契約になっていたので、毎月の売上はオーナーにわかってしまう。最初のうちは家賃分も稼げていないから、そりゃあ大丈夫ですかになって当たり前だ。ここでの大丈夫ですは、少なくとも二つの意味があった。まずは不動産オーナーを安心させなければならないということ、専門家が大丈夫と言っているのだから、大丈夫だろうと思ってはもらえる。そして、何よりも、自分を安心させるためでもある。「大丈夫です」と言っておかなければとても落ち着かないのだ。そういうからには、売上を上げるために努力をしようとするものだ。

どうしたらいいでしょう、何て泣きつく先もない。自分で何とかするしかない。そのための「大丈夫だ」でもある。

ヤンの場合には、機密だから話せないということと、無理に理解してもらおうとは思わない、と言う意味でも使われた。そりゃあ、自分だって、店舗経営の素人に、店舗経営のことを話したところで理解されるわけもないし、彼らは家賃が回収できればいいとしか考えていないのだから、事細かく説明しても意味がない。そこで一言「(専門家の自分が大丈夫だといっているのだから)大丈夫です」で終わる。そもそも自分だって100%上手くいく自信があったわけでもないから、どう具体的に大丈夫かと言われても、返す言葉がなかった。まあ、結局大丈夫だったんだけれども。

(教訓)
〇大丈夫は相手に理解させる必要もない魔法の言葉になりうる。
〇大丈夫は自分を安心させるための魔法の言葉である。但し、それに頼り切ってはならない。メンタル的にひとまず安心させたら、本当の結果で安心させなければならない。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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