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会社って民主主義じゃないな

「あの老人を殺したくないものだな、バイエルライン。敵ながら敬愛に値するじいさんだ」
「同感ですが、降伏を勧めても承知はしないでしょう。私にしても、敵に敗れて、仰ぐ旗を変えようとは思いません」
ミッターマイヤーはうなずいたが、わずかに眉を動かしてバイエルラインに注意した。
「卿の考えはそれでよいが、口に出すのは慎めよ」
かつての敵手に臣従して、重要な存在となっているファーレンハイトやシュトライトのような生き方もあるし、それは非難されるべきことではない。彼らの場合、最初に仰いだ旗が間違っており、敵手に能力や人格を認められて以降が、彼らの真の人生と言うべきであった。

「敵将に告ぐ。卿はわが軍に完全な包囲下にあり、帰路はすでに失われた。これ以上の抗戦は無意味である。動力を停止して降伏されたし、皇帝ラインハルト陛下は、卿らの勇戦に対し、寛大なる処遇をもって報われるであろう。重ねて申し込む。降伏されたし」

「皇帝ラインハルト陛下、わしはあなたの才能と器量を高く評価しているつもりだ。孫を持つなら、あなたのような人物を持ちたいものだ。だが、あなたの臣下にはなれん」
「ヤン・ウェンリーもあなたの友人にはなれるが、やはり臣下にはなれん。他人事だが保証しても良いくらいさ」
「なぜならば、偉そうに言わせてもらえば、民主主義とは対等の友人を作る思想であって、主従を作る思想ではないからだ」
「わしは良い友人が欲しいし、誰かにとって良い友人でありたいと思う。だが、良い主君も良い臣下も持ちたいと思わない。だからこそ、あなたとわしは同じ旗をあおぐことができなかったのだ。ご好意には感謝するが、今さらあなたにこの老体は必要あるまい」
「・・・民主主義に乾杯!」

(解説)
まず学校を卒業すると、どこか会社で働くことになる。いわゆる旗を仰ぐわけだ。その旗をどう選ぶか、大抵、学校のレベルで、希望が叶ったりかなわなかったりするわけだが、希望にかなったとしても、自分にとって仰ぐ旗が正しかったかどうかはわからない。

どうあれ、自分の能力や人格を認められる会社であるかが重要で、認められてから人生が始まるといってよい。もちろん認められる努力はしなければならない。入社しました。認めてくれ、と言う甘い話などどこにもない。

さて、同盟軍のビュコックに対して、帝国のミッターマイヤーが降伏を試みるが、一言で言うと、旗が違う。しかしこのビュコックの言葉で、今までの違和感が解消された気がする。サラリーマンの皆さんは、会社がいかに軍隊であるかと思い知っているだろう。民主主義的考え方に立つと、主従関係があると、しっくりこないのだ。だからと言いつつ、会社で主従関係を無くしたら、それこそ組織がまとまらないと思う。だが、民主主義に相応しい会社の在り方が、ビュコックの言葉にあるのではないか。

顧客と会社との関係は、すっかり「お客様は神様」的な考え方に染まっているが、対等だと思う。会社内での関係はやむを得ないかもしれないが、会社にいる間は、上司と部下に手中関係があり、しかも雇用者と被用者の間には、給料を払ってやっているんだという主従関係が付きまとう。困ったことに就業時間を終えても、その主従関係は消えない。だから、企業には違和感しかないのだ。会社に行くとそこには民主主義がない。「民主主義とは対等の友人を作る思想であって、主従を作る思想ではない」、これが全てである。

ここでは問題提起しかし得ないが、民主主義に相応しい会社における人間関係を再構築する良い機会が、訪れていると思われる。それが経済的な強弱で再構築、より強化されてしまっては意味がない。アフターコロナの時代では、その危険性もないではない。

(教訓)
〇お客さまと会社の関係対等である。
〇雇用者被用者の関係も対等である、はずだ。
〇民主主義に相応しい会社組織の在り方を考え直そうではないか。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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