宮本武蔵に学ぶ、
「太刀の構え方に重点を置くのは、誤った考え方である。世間一般には、構えをするということは、敵がいない場合のことであろう。そのわけは昔からの先例や、今の時代の法だなどと、定まった型を作ることは勝負の道にはありえない。相手にとって具合が悪いように仕組むことなのである。」
「物事の構えと言うものは、物事に動かされない。確固とした体制を取るための用心なのである。城を構えたり、陣を構えたりすることは、人に仕掛けられても、少しも動かぬ状態を言いあらわしているが、これは常のことである。ところが兵法勝負の道では何事も先手先手を心がけることである。これに反して構えるということは先手を待っている状態である。」
「兵法勝負の道にあっては、相手の構えを動揺させ、敵の思いもよらぬことを仕掛け、敵をうろたえさせ、むかつかせ、おびやかして、敵が混乱して拍子が狂ったところに乗じて勝ちを得るのであるから、構えなどと言う後手の態度を嫌うのである。従って、我が兵法においては、構えがあって構えがない。」
(解説)
武蔵にとって、剣の構えは斬るために有効な構えをしろということであって、構えのための構えは否定した。むしろ「構えるな、斬れ」とも言っているくらいだ。そして、勝負の道には、昔からの先例や決まった型はないと言い切っている。
構えとは剣の世界において、基本のように思われているが、実は構えは基本ではありえない。剣が人を斬るためにあるのならば、どのようにすれば人を斬れるかを実践して、不足分は補いさえすればよい。基礎体力トレーニングは基本と言えるが、構えたからと言って少なくとも人を斬るためには何の役にも立ちはしない。
特に過去の成功法等は原則否定されるべきだろう。参考にする程度ならばよいが。そもそも過去の成功法は時代背景やそのときのプレーヤーによる。一つでも変われば、その成功法に再現性はないのだ。
しかし武蔵も構える必要性を説く場面がある。それが、何もしないときに構えろということなのだ。ビジネスをやっていると必ず逆境が訪れる。そのときにはじたばたせずに、フィジカル的にも、メンタル的にもどっしりと構えて、慌てないことが重要だ。慌ててつまらない仕事を手掛けてしまうと、アリ地獄にはまってしまう。つまり、動かざること山のごとし、というものだ。
ビジネスにおいては構えるよりも攻める方がメインでなければならない。競合相手は焦らせ、顧客には喜ばれなければならない。そんなときにまずは構えてなんて流ちょうなことを言っている暇はない。さっさとキャンペーンをやれ、顧客を喜ばせるように行動せよ。構えなんてどうでもいい。 つまり風のように素早く動けということだ。
[教訓]
〇構えよりもさっさと行動をせよ。
〇構えが必要なときは、自分が危機的状況に陥ったときだ。まずは慌てることなく心を静めよ。冷静さを取り戻してから、物事の解決に取り掛かれ。冷静さを取り戻す手段こそが、構えなのだ。