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クズな経営者からはクズな従業員しか生まれない

父上は政治に携わり、斉の宰相として、今日まで三王にわたりますが、その間、斉の領土は一向に広まらないのに、父上の私家は万金の富を積み、しかも、門下には一人の賢人も見られません。「将の門には必ず将あり、相の門には必ず相あり」と聞いています。今、父上の後宮は綺穀(縞模様のある絹)を着て、長い裾を踏んでいますのに、国土は裋褐(粗末な毛織の服)さえ得られず、僕妾は梁肉(良米と肉)を食べ余していますのに、国土は糟糠さえ食べかねています。今父上は、なお、このうえに蓄積を重ね貯蔵を余し、それを分らない子孫の誰に贈ろうとて、国家の日に日に存するのを忘れておられますのか。私は心秘かに奇怪に堪えないのです。

 

孟嘗君は、函谷関まで来たものの、関の掟として、鶏が鳴かないと門を開けて客を出さなかった。孟嘗君は追手の来るのを恐れた。下座の客に鳥の鳴き声を上手に真似る者があり、その空音に誘われて、あたりの鶏が皆泣き出した。ついに伝馬を発して関を出た。・・・かつて、孟嘗君が下座のこの二人を賓客にしたとき、他の賓客たちは、皆同列になるのを恥じた。しかし、孟嘗君の秦の遭難を二人が救うと、この後、賓客たちは、皆納得した。

 

(解説)

孟嘗君は斉の宰相である。前段は孟嘗君が父に対して言った台詞である。国の富が増えないのに、政治家や官僚の取り分が減らないどころか増えているケースは今の日本のようだ。仮に会社が大きくなり、売上高が増え、役員報酬は上がる一方だが、なぜか優秀な人材は残らないということはよくある。まさに門下には一人の賢人も見られないという状況だ。まあ、金だけでは優秀な人は残らないと思う。お金だけで会社を選ぶのであれば、もっと稼げる場所はいくらでもある。また会社の売り上げが減ってきたら、従業員を減らそうとする。その結果、一人一人の負担が増えていき、役員だけはいい思いをしている。ありがちな風景だ。役員報酬をもらって、子孫に残そうとしても、玄孫の下は何だっけ?そもそも生まれてもいない子孫のことを考えても仕方がないだろうと。

 

そしてここでいう将とは将軍だし、相とは宰相のことだが、単に身分や役職のことではなく、ノブレス・オブリージュという心持った高貴な人物と考えたい。クズな政治家や官僚に育てられたものはクズしか生まない。若手の中には、高い志を持った人が多かったろうに、いつしかクズになっていくものだ。会社でもクズな経営者からはクズな従業員しか残らない。

 

後段は「鶏鳴狗盗」と言う故事の由来だ。食客は、盗みや物まねしかできないものを孟嘗君が、自分たちを平等に扱うのを喜んではいなかった。しかし秦へ孟嘗君が赴いて。囚われたときに、盗みを働かせて、宝物である琥珀裘を倉から盗み出して、秦の昭王の寵姫にそれを渡し助け出してもらい、さらに函谷関から抜け出すのに、鶏の物まねしかできない者が孟嘗君の命を救った。ここからつまらない才能でも何か役に立つことがあるというのだ。今は使えなくてもどこかで使える、いざという時に使えるかもしれない。使い道を見いだせないのは、それしかできない者が悪いのではなく、それを使いこなせない経営者の方の管理能力を恥じるべきだ。

 

[教訓]

〇クズからはクズしか生まれない。会社もそうだ。

〇つまらない才能でもどこかで生かされるときがくる。それを生かせないのは、その場面が訪れないのか、それを使いこなせない経営者の無能さである。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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