燕の恵王は、元々楽毅を疑っていたので、間諜の言葉を聞くと、すぐ、それに乗り、騎劫を代わりの将軍として楽毅を召還した。楽毅は、恵王が自分を快く思っていないために後退させるものと察し、帰れば殺されるだろうと、趙に投降した。
燕の恵王は、騎劫を楽毅と代わらせたため敗戦して、多くの将士を失い、斉の地を失ったのを後悔すると同時に、また楽毅が趙に投降したのを恨み、趙が楽毅を用いて、燕の疲弊に乗じ燕を討たないかと心配した。それでひとを遣って楽毅を責め、かつ詫びていった。
「先に先王が国を挙げて将軍に委任し、将軍が燕のために斉を破って先王の仇を報いられたことは、天下誰一人として震動せぬものとてなかった。わたしもどうして一日たりと将軍の功を忘れたことがあろうか。・・・左右の近臣が私を誤らせた。私が将軍を騎劫と代わらせたのは、将軍が久しく国外にあって雨風にさらされ苦労を重ねているので、しばらくは召喚して休養をさせ、その上ことを計らおうと考えたのであ。それを将軍は私と不仲故と聞き誤って、燕を捨てて趙に投じた。将軍が自己の行動を自ら計るのは良いとしても、それでは、果たして先王が将軍を殊遇され盛意に報いられるだろうか。」
楽毅は書簡をもって恵王に報じた。
「私は不肖の者で、王命を報じながら側近の心に従うことができず、先王の命を傷つけあなたの高義を害いはせぬかと、そのためのがれて趙に出奔したのであります。」
(解説)
恵王は楽毅を信用せず、一度は冷たい目に合わせ、楽毅はこのままでは殺されると趙に逃げ、恵王が戦争に負けると、楽毅を連れ戻そうとしたとき、お互いが手紙でやり取りとしている。その時に大切なのは、王は誤っているようで誤っておらず、楽毅に感謝しつつ、ついに親の名前を出して、今のままだと昭王に不義理なのではないかと、自分のしたことを棚に上げて、責めている。それに引き換え、部下としての楽毅は、恵王を責めずに、誤って自分を処罰してしまうと、父親の昭王の名前を傷つけるとしている。どちらも自分の非を認めていない。王と家臣の間柄であるから、王は部下に謝らない。部下は王を責めない。そして今は亡き親、昭王の名前を借りて、お互いに一応気を使っているような感じである。
上司が部下に頭を下げてもいいのだが、自分がプライドがあると思ったら、まずは感謝をし、相手をちょい責めるのは良いだろう。部下は面と向かって上司に悪口も言えないだろうし、そこは仮に上司の方が悪いとしても、気を使うのが良い。それができるか、できないかで、より強固な上司と部下の関係を築くことができる。
[教訓]
〇上司は自分の非を面と向かって認めなくてもいい。しかし、せめて心の中では謝罪しろ。
〇部下は上司の間違いを面と向かって指摘するな。それとなく気を使って伝えよ。