楚の人曹丘生は弁舌の士である。しばしば権勢に媚びて権勢を身に着け、金銭を得ることを念願とし、貴人趙同らに仕え、外戚竇長君と親しかった。季布はこれを聞き、書簡を竇長君に寄せて、「曹丘生は長者でないと聞いています。彼と往来されないように」と諫めた。曹丘生は帰郷するにあたって、季布に会うため竇長君から紹介状を得ようとした。竇長君が「季将軍はあなたを良く思っていない。あなたは行かない方が良いだろう」と言ったが、強いて紹介状を請い、ついに出かけた。人をやってまず紹介状を季布に届けたところ、季布は果たして大いに起こって曹丘を舞った。曹丘は到着すると拝礼もせず、会釈しただけで即座に季布に言った。「楚人のことわざに『黄金百斤より、季布の一諾がまし』と言いますが、あなたはどうしてこんな名声を梁・楚の間に得られたのでしょうか。わたしは楚人であり、あなたもまた楚人であります。私が天下を遊歴してあなたの名声を吹聴したなら、あなたの名は天下に重んぜられるのではないでしょうか。どうしえあなたは私をそんなに拒まれますか。」
季布は大いに喜び、請じ入れて引き留めること数か月、上客としてもてなし、手厚く餞別して送り出した。季布の名声が、ますます高まったのも、曹丘がこれを揚げたのである。
(解説)
「季布の承諾の一言は、黄金百斤より勝る」という言葉から「一諾千金」という諺が生まれた。一度承諾したことは千金の重みがあり、約束を重んじなければならないことの例えとなった。
さて、季布は曹丘生が、権力欲や金銭欲が強かったので苦手だったようだ。しかし、きっとトークが上手かったのか、自分が季布の名声をもっと広げますとおだてられたものだから、その気になってしまった。そして、実際、名声が広がったものだから、もっと喜んだ。非常に単純な男だ。
実際に、会って見なければその人の本当の人柄は分からないし、仮に自分の嫌いなタイプであったとしても、自分にメリットを与えてくれる人物であれば、そこまで毛嫌いすることもない。言葉は悪いが多いに利用するといいのだ。相手がそれを望んでくれて、自発的にやってくれるというのだから。遠慮することはない。
いずれにしても、約束をしたら守る。それができない人物は誰からも信頼されない。約束を守らない人の周りには約束を守らない人ばかりが集まってくる。だからいつまでたってもビジネスは上手くいかない。
[教訓]
〇約束したら何が何でも守れ。できない約束はするな。
〇自分の嫌いなタイプであっても、自分にメリットをもたらしてくれるのであれば、大いに利用すると良い。