大吏怒りて服せず、敵に遇えば懟みて自ら戦い、将は其の能を知らざるを崩と曰う。
(現代語訳)
上級の部将が怒って将軍に服従せず、敵に遭遇すると、将軍の命令を待たずに自分勝手に戦い、将軍は上級の部将の能力を認めていないのを、組織が崩壊する軍隊という。
(解説)
ここで大吏とは、上級将校のことである。ビジネスの場面で言うと部長・課長クラスのようなイメージだ。この上級将校と将軍、つまり取締役との連携が取れていなければ、軍隊は自滅していくと述べている。
部長、課長クラスが取締役に対して感情的になって、命令を聞かないことは、意見の相違や人間的な相性等の悪さもあると思うが、仮に取締役が部長や課長を一時的に排して、部下に直接命令をすると、部長や課長が現場レベルの判断をして、反抗的になっているのだから、結果として望ましい結果にはなりはしない。
孫子はこういう人間的な揉め事も取締役の責任と考えている。取締役が人事権を持っているとすれば、自分が任命した部下が反抗的であれば、任命責任といわれても仕方がない。通常はいやいやながら上司の言うことは聞くだろうし、現場レベルでの判断が正しいと思ったら、上司を納得させるのも部下の仕事と言えるだろう。
会社組織は一種の軍隊のようなところもあると思うが、部下は上司の言うことを何が何でも聞くべきだという態度も望ましいとは限らない。時間が許す限り、上司と部下の間で、意思統一を図るためのすり合わせはしておくべきだと思う。単に、俺の方が偉いから言うことを聞け、という態度を上司が取れば、部下はそのタスクを本気にやらないことだってある。心のこもった仕事とこもらない仕事であれば、後者の場合、トラブルに発展しかねない。人間はロボットではなく感情の動物であることを心得ておいた方がいい。
普段から信頼関係を築けておけば、上司と部下は阿吽の呼吸で、「これやっといて」「承知しました」の一言で済む。上司の性格を知っていれば、上司の意図もわかるから、何でこんな仕事やらなきゃならんのだ、と疑問に思うことも少なくなる。
円滑なコミュニケーションは、組織をスムーズに運用するための潤滑油なのだ。
[教訓]
〇上司と部下の間で普段から信頼関係を熟成しておけ。
〇円滑なコミュニケーションが、組織運営の潤滑油だ。