昔、殷の興るや、伊摯、夏に在り。周の興るや、呂牙殷に在り。故に惟だ明君・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す。此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。
(現代語訳)
昔、殷の勃興したときには、伊摯が間諜として敵国の夏に潜入した。また、周が勃興したときには、呂牙が敵国の殷に潜入した。だから優秀な君主と賢明な将軍であって初めて、優れた知恵者を間諜に任命して他国に送りこみ、必ず大いなる功績を上げることができるのである。これこそ軍事の要枢であり、全軍がそれを信じて行動する拠り所なのである。
(解説)
孫子の兵法には珍しく、具体的な事例や人名を上げている。まずは伊摯(伊尹)。夏末期から殷 (商) 初期にかけての政治家。湯王を助け、商の成立に大きな役割を果たした。次に呂牙(太公望呂尚)。紀元前11世紀頃の古代中国・周の軍師、後に斉の始祖。周の文王に見いだされ、周の建国に尽力した。どちらも君主からスパイとして敵国に侵入して、諜報活動を行ったという。スパイの活躍が国家の勃興を支えている。
近年、スパイと言って最初に思い浮かべるのは、個人だと007ことジェームズ・ボンド、組織だとアメリカのCIA(中央情報局:Central Intelligence Agency)だろう。ちなみにボンドはイギリスの秘密情報部MI6(Military Intelligence 6)の工作員という設定だ。そして、MI6の任務は「指導者に情報を提供することで、軍事工作はしないし、殺しのライセンスは持っていない(サワーズ元長官の公式見解)」どうやら英語のスペルを見て欲しい。日本語で情報=インフォメーションと言っているが、実はインテリジェンス(Intelligence)なのだ。
インフォメーションとインテリジェンスは言葉が異なるのだから、意味も異なる。インフォメーションが単なる情報であるのに対して、インテリジェンスは「判断を下したり行動を起こしたりするために必要な知識」である。ビジネス的に表現すれば、「利益を実現する知識」と言い換えることができる。
そのため、起業家としては、書籍やネットから様々な情報(インフォメーション)を得ることができるが、それをインテリジェンスに変える役目も持っていると言える。
[教訓]
〇起業家の役目は、インフォメーションを収集し、インテリジェンスを生み出すこと。
〇インテリジェンスとは「利益を実現する知識」のこと。