将軍の事は、静以て幽、正以て治。能く士卒の耳目を愚にし、之をして知る無なからしむ。其の事を易え、其の謀を革め、人をして識る無なからしむ。其の居を易え、其の途を迂にし、人をして慮るを得えざらしむ。
(現代語訳)
将軍は物事を静粛かつ幽玄に進め、整然とまた正確に行う必要がある。だから兵士を統制する場合にも、無用な混乱を避けるため、将軍レベルの重要情報が兵士の耳に触れないようにし、将軍の真意を察知されないようにする。例え真意は一つとしても、表面上の言動を適度に変え、また計略を改め、軍が何をしようとしているのかを悟られないようにする。また、駐屯地を転じ、行軍路をわざと遠回りにし、軍がどこに行こうとしているのかを悟られないようにする。
(解説)
前段は、上に立つ者はどっしり構えて落ち着き、公明正大で偏見のない判断力をもって組織を束ねよと説いている。上記で「静」とは沈着冷静のことであり、「幽」とは深謀遠慮のことを言う。リーダーは部下を子供のように思え、その方が必死になって働いてくれる。但し、甘やかすと使い物にならなくなるよと、上手く優しさと厳しさを使い分けろと言っている。リーダーは自分の判断に基づいた上で、冷静になり、時には非情になれるかが問われる。
後段は、組織の情報は必ずしも全員が共有すべきものではなく、自らはあらゆる情報を掌握した上で、正確な判断をすべきだ。さらに経営陣レベルの情報は、一般兵に知らせるべきではなく、その真意すら悟られてはならない。加えて、うちの大将いったい何やるつもりなんだろうと思われてもいいから、「敵を欺くにはまず味方から」という気持ちを持てということだ。
経営者の考え方は、まさに朝令暮改で、朝思っていることは夕方には別の考え方になっている。無節操な人なのではなく、それだけ社会の移り行くスピードが速いのだ。朝いいと思ったことは、夕方には違和感を持ってしまう。そうなるとそれ以上は進めない方が良い。それを従業員がいちいち知ろうと思っても意味はない。決定事項だけを知ればいい。
また、経営陣の情報で一般従業員から外部に漏れることもあるだろう。新製品の開発、発表、あるいは企業買収の情報を競合他社に知られると、死活問題になりかねない。情報の発信源を抑えられれば、情報漏洩のリスクも抑えることができる。
部下にもわからないことは、競合他社にはわからない。
[教訓]
〇リーダーたるもの沈着冷静で、さらに深謀遠慮であれ。
〇部下にまで企業機密を伝えるな。情報漏洩リスクを抑えろ。