故に兵を形すの極は無形に至る。無形なれば即ち深間も窺う能わず、智者も謀る能わず。
(現代語訳)
軍隊が究極形を表すのは無形である。無形であればスパイも実情を知ることはできず、有能な者も策謀を巡らすことはできない。
(解説)
今までの経済であれば、有形資産は持ったもの勝ちだった。いわゆる右肩上がりの高度経済成長を約束されていれば。トレンドが明確であれば、有形資産も一定の収益率を期待できた。しかし残念ながら、経済は変わってしまった。不確定時代の突入だ。
近年、個人でも持たないことが恥ずかしくない時代になっている。マイホームもいらない。自動車もいらない。人によっては家族もいらない。ひいては子供もいらない。家族とマイホームと自動車はほぼセットだから、これら三点セットは全部いらなければ何もかもいらなくなる。そもそもマイホームと自動車はローンを前提とした商品であって、今後とも収入が未来永劫確定的であり、むしろ増えることを前提とした制度なのだ。
個人ですらも何も持たないことを前提とせざるを得ない世の中だ。会社もそうなるに違いない。当然会社のやっている事業次第であるが、今後、売上に応じてありとあらゆるものが変動費化してくるし、固定費のままのモノは次第に敬遠されていく。
あくまでもどれを変動費化するか固定費化するかは、その事業の内容による。ネット系ビジネスで資金調達をそれほど必要としない場合、人件費については、従業員を採用すれば固定費、外注すれば変動費になる。今後の事業形態は、コンビニのフランチャイズ方式が望ましくなってくるだろう。雇わず、変動費化のままだ。それに売り上げたら売り上げただけ、給料も増える。働く者のインセンティブと使う方のインセンティブがこれほど合致した制度はない。
これから会社の無形資産の割合は高くなっていく。その無形資産とは、顧客とのネットワークであり、仕事を共にしていく仲間のネットワークだ。ビジネスモデルも無形資産の例だ。緩い繋がりにはなるだろうが、別に従業員として雇っていても、身を粉にして働いてくれる人も少なくなってくる。会社として従業員として抱えているメリットが依然と比してものすごく少ない。さらに多くの人を抱えると会社の機動力を欠く。事業を大幅にスイッチしたいときに、人を動かせない。
従業員を囲い込むのは、お金も大事だが、経営者の魅力という時代がやってくるだろう。しかし経営者の魅力であるならば、従業員を囲っておく必要もなくなる。
ありとあらゆる意味で会社の無形化が進んでくると思われるが、当然それも事業による。装置産業は有形資産の割合は大きいだろうし、人を雇う必要だってある。
[教訓]
〇収入が不確定なのだから、固定費が大きいと損益分岐点が上がり、事業リスクとなる。
〇将来が不確定の時代、多くの企業にとって、変動費化の割合を高める経営戦略が免れなくなってくる。
〇事業にもよるが、人件費も変動費化が避けられない経営資源の一つとなる。
〇企業の究極の姿はほぼ無形資産の会社だ。