凡そ客為るの道は、深く入れば則ち専らにして、主人克かたず。饒野に掠むれば、三軍食足る。謹め養いて労すること勿く、気を併せ力を積み、兵を運らして計謀し、測るべからざるを為す。之を往く所無きに投ずれば、死して且つ北げず。死焉んぞ得ざらん。士人力を尽つくさん。
(現代語訳)
遠征軍を編成し敵地に赴く場合の原則は、敵の国境を越えてはるか深くに進行すれば、兵士は気力を充実させ必死となって戦うので、本国にあって迎え撃つ敵はこちらに対抗することができない。肥沃な土地で農作物を略奪すれば軍隊の食料も充足する。その食糧で兵士を十分に休養させ疲れさせず、兵士の気を漲らせ、全力を尽くさせ、軍隊を上手く運用して策略を巡らせ、敵にこちらの動きを予測させないようにする。兵を敵中深く進攻させ、勝利のみが帰還を約束するという状況に追い込めば、彼らは死力を尽くして奮戦し、敵前逃亡するようなことはない。どうして必死の覚悟を抱かないことがあろうか。彼らは全力を尽くして働くであろう。
(解説)
最初から競争の激しいレッドオーシャン市場で従業員を鍛えた方がいい、ということを言っているわけではない。相当敵国の奥深くまで入り込み、もう少しで敵国を落とせる、あるいはそのきっかけをここで掴めるという状況下で、兵士を必死にさせるための用兵術である。敵軍の本陣へ近づけば近づくほど、こちらの兵士の緊張感は徐々に高まっていくが、敵軍の防御網もまた厚くなり危険性を増す。それゆえ兵士には今まで以上の団結が求められる。だからこそ、勝利しなければ帰国できないということで発破もかける。
当然「その食糧で兵士を十分に休養させ疲れさせず、兵士の気を漲らせ・・・」とあるから、顧客を取ってくるまで帰宅させないとか、顧客との契約が取れないのは根性が足りない、時間をかけろ、足で稼げ、基本給を払わずにフルコミッション(完全成功報酬制)だ、などと意味もない窮地に立たせるような間抜けな話ではない。
そもそもそんな場所を戦地に選んだ経営者が間抜けと言ってよい。人を巻き込まず、お前が自分一人で玉砕してこい、といったところだろう。
もちろんぬるま湯のような組織で困る。そこでスタッフには、会社の売上をブレイクダウンした上で個々人の能力に合わせたノルマや達成目標を課すことは最低限必要と言える。それらを設定することで、部下や社員を追い込んで、組織全体の成果につなげていく。ある程度プレッシャーをかけ、追い込むことによって、組織としても普段以上の力を発揮できるようになる。そしてそれはなによりも個人の成長につながるのだ。但し、能力を大幅に超えるノルマはやりすぎだ、せめて背伸びくらいにしておいた方がいい。それもどれだけプレッシャーに耐えられるかという個人の気持ち次第ではあるけれど。
[教訓]
〇会社はわざわざ競争の激しいマーケットを狙うな。
〇個人能力に合わせて、ノルマや達成目標を設定し、最低限のプレッシャーをかけよ。それが組織全体の成果を高めるだけでなく、個人の成長にもつながる。