故に火を以て攻を佐くる者は明なり。水を以て攻を佐くる者は強なり。水は以て絶つべくして、以て奪うべからず。
(現代語訳)
火を攻撃の助けとすることができるのは将軍の叡智であるが、水を攻撃の助けとすることができるのは、強大な軍事力である。水攻めは、比較的低地にある敵の糧道を分断することはできるが、高所にある敵の要衝の地を奪うことはできない。
(解説)
火攻めと水攻めを比較している。火攻めはタイミング次第でいつでも仕掛けられる。乾燥している場所ならば、どこでも攻撃できる。高い土地でも仕掛けることができる。時間も要しない。コストも安価だ。これに対して、水攻めは、水路を変更するなどの土木工事を要する。しかも低地にしか仕掛けられず、時間がかかる。加えてコストがかかる。前者は将軍の意思で仕掛けられるが、後者は国家の資源を総動員することにもなりかねないから、君主が意思決定をしなければならない。火攻めの方が圧倒的にコストパフォーマンスが高いと言える。
これを字義通りに解釈するならば、火攻めを推奨していると捉えることになるが、現代流に解釈しようとすると、少々視点が変わる。ここでは、常に火攻めにすべきで、水攻めはやめるべきだと言っているわけではない。乾燥地帯であれば、火攻めは圧倒的に有効だが、雨期であったり、湿地帯であれば、火攻めに頼るわけにはいかない。ここで重要なことは、場所や時期によって、それぞれ有効な方策を変えろということだ。むしろコストパフォーマンスが高いことを理由として、常に馬鹿の一つ覚えもよろしくない。当然、雨期において火攻めは効果がない。雨期であれば川の氾濫も期待できるから、乾期のうちに土木工事をこなし、雨期で一気に仕掛けることが可能だ。
戦略は全て、コストパフォーマンスで決めるべきだ。現代流に言えば、パフォーマンスは売上や結果、コストはかかる費用と時間。なぜ時間も考えるべきかというと、かけた時間に他のことをやれば得られる成果を、ここで選んだプロジェクトのために放棄することになる。こういった考え方を機会費用と呼ぶ。それを時間の数式で表すためには、割引率に期間を乗事るのだが、数式を書いておこう。
P(R)A:プロジェクトAの期待収益
FCF:フリー・キャッシュ・フロー⇒税引後営業利益+減価償却費―設備投資―正味運転資本増加額
r:割引率⇒事業のリスクを数値化したもの
プロジェクトAとプロジェクトBがどちらの数値が高いかで決めればよい。時間がかかるとかコストがかかるからダメなのではなく、どちらの方が利益が出るか、時間も考慮に入れて、そう考えることで本当のコストパフォーマンスを比較することができるようになる。
[教訓]
〇戦略はコストパフォーマンスで決めるべき。
〇コストパフォーマンスを比較する場合には時間価値も考慮に入れろ。