夫れ兵の形は水に象る。水の行くは、高きを避けて下に赴く。兵の形は、実を避けて虚を撃つ。水は地に寄りて流れを制し、兵は敵に因りて勝ちを制す。故に兵に常勢無く、水に常形無し。能く敵に因りて変化して勝ちを取る者、之を神と謂う。
(現代語訳)
軍隊の形は水の姿を理想とする。水の流れは高い所を避け、低い所に流れる。軍隊も敵の実(充実した所)を避け、虚(弱い所)を撃つべきだ。水は地形に即して流れを決め、軍隊は敵の実情に応じて勝ちを制する。それゆえ軍隊には不動の形はなく、水にもいつもの形はない。全ては敵の変化に自在に対応して勝利を収めるのである。こうした巧みな変化は、普通の人の目には神業に映るであろう。
(解説)
企業も水の姿が理想である。水の流れは高きから低きに流れるとあるが、自然のままということだ。社会の流れに逆らっても仕方がない。ビジネスも無理をせず、流れに乗ればいい。上手くいっていないビジネスの多くが、自然の流れを無視している。世の中の流れを無視して、いらないものを売っている。また、望ましいから欲しいものとは限らない。望ましくても高くて買えないものは消費者は買わない。緊急性を要しないものはいらない。治療にはお金を払うが、予防にはお金を使わない。ここで必死に予防を訴えても消費者には響かない。
水は人間や生物にとって必要不可欠なものだ。ミネラルウォーターには値段が付くが、水不足がない限りは希少価値がなく、ダイヤモンドのような値段が付くことはない。しかしこれほど命を守るものはない。なくても大丈夫なものよりも、なければならないものを扱っている企業は強い。そのため、生活必需品を生産している企業は多く、競争もまた激しい。衣食住といったところか。それゆえ新規参入者も多い。
水は面白い存在だ。じょうろで花に水をやっているときに水を見ていると非力だが、津波となって襲ってくると、コンクリートのビルさえも破壊してしまう。コップに水を入れたり、どんなところにもどんな形でも水は収まる。土にかけると染み込んでなくなってしまう。川も大河に収まっていると思ったら、支流にも入り込む。前に岩のような障害物があってもそれをよけて通る。非力かと思ったら、水の雫が何年もかけて岩に穴をあける。
水には形がない。そして相手の変化に対応して臨機応変に変わる。ここで社会の流れに合わせて、変わりゆくというところがポイントだろう。企業も水のように変化することができれば、どんな時代でも生き抜くことができるに違いない。ただ、企業だけが柔軟性を持つことはない。企業を構成しているのは人間だから、人間そのものが柔軟性を持たなければならない。
水は相手に合わせて変化し、どんな隙間にも入り込む。消費者のニーズに合わせよ。そして消費者の心の隙間に染み入るサービスを提供することを考えよ。まさに水のようにだ。
[教訓]
〇水のように臨機応変に経営せよ。
〇水のように消費者ニーズに合わせよ。
〇水のように消費者の心の隙間に染み入るサービスを考えよ。