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小は大を兼ねるという逆説も真

孫子に学ぶ、「凡そ衆を治むること寡を治むるが如きは、分数是れなり。衆を闘わしむること寡を闘わしむる如きは、形名是れなり。三軍の衆、畢く敵に受えて敗る無からしむべき者は、奇正是れなり。兵の加うる所、碫を以て卵に投ずるが如き者は、虚実是れなり。」

(現代語訳)
大隊を動員しているのに、まるで小隊を動員しているかのように整然としているのは、分数(部隊編成)が明確だからである。大隊を戦闘させているのに、まるで小隊を闘わせているかのように機敏であるのは、形名(号令)の形式が整っているからである。全軍の士卒が敵の来襲に対応して破れることがないのは、奇襲と正攻法の運用が巧みに行われているからだ。固い石を柔らかい卵に投げつけるようにたやすく敵を打ち破ることができるのは、虚実の運用が適切に行われているからである。

(解説)
組織にはそれぞれのリーダーがいる。大企業へ入社して、新入社員がすぐに代表取締役になることはない。実は上場企業で入社したときに既にマネージャーとなったことがあるのだが、どちらかと言うと管理職にしておいた方が残業代の点で企業側にとって有利になるからという意図が見え見えである。

普通は係長、課長、部長、本部長を経て、取締役になり、最後は代表取締役になるというのがサラリーマンの出世コースである。最初は数名を束ねていればよかったのが、次第に大人数を束ねていかなければならなくなる。数名ですらも束ねるのが大変なのに何百名なんて無理だよとしり込みしてしまう。もっとも自分が部長になったときには、その下の課長がその下を束ねてくれるから、自分が直接管理する人間の数は案外それほどでもないことに気づいたりもする。

それに経験を経れば、自信も身につくというものだ。むしろ部長から取締役へ変わるときの方が、責任が重くのしかかってくるはずだ。従業員と役員とは雲泥の差だ。前者は雇用契約だが、後者は委任契約である。前者は絶対的有償だが、後者は有償とは限らない。無償でも委任契約は成立してしまう。

最近は学生社長もいる。社会はよくできたもので、小さな会社での社長だから、管理する人間は少なくて済む。会社が大きくなっていくにしたがって、人も増え、経験を経て管理する人の数も増える。だから自然にマネジメント力が鍛えられる。

ただ、孫子は大組織も小組織も変わらないと言っている。しかし条件がある。①部隊編成が明確、②指示命令系統が明確ということだ。奇正や虚実についての言及もあるが、それはまた別稿で論じよう。上記二つが確立して初めて、大多数の組織を小組織と変わりなく束ねることができる。そもそも指揮命令系統が不明瞭だと小組織ですらどうにもならないが。

なお、ここに三軍とあるが、上軍、中軍、下軍という兵制のことを言う。現代で言えば陸海空軍という理解でも差し支えない。つまり全軍という意味だ。少なからず日本プロ野球にあるような二軍の下という意味ではない。

[教訓]
〇大多数の組織であっても、部隊編成と指示命令系統が明確であれば、小組織と変わらず管理することができる。
〇大多数の組織だからと言って、しり込みなさるな。小さな管理ができれば大きな管理もまたできる。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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