是の故に始めは処女の如く、敵人戸を開き、後には脱兎の如くにして、敵拒ぐに及ばず。
(現代語訳)
始めは弱々しい乙女のように見せかけて敵を安心させると、敵はやすやすと城門の扉を開いてしまう。ところが後で豹変して脱兎のように迅速に行動する。そうなると敵はその急激な変化に対応できず、我が軍をおしとどめることができない。
(解説)
企業買収の現場ではたまに見受ける。しかもベンチャー企業に出資する場面。ベンチャー企業は資金力が乏しい。しかも成長を目標としていれば、キャッシュハングリーにもなる。運転資金や設備資金は欲しいものだ。特に成長軌道に乗ってくると、お金がありさえすれば成長するのが読める、それどころか成長に後押しされて、その勢いに飲まれて、資金需要が高まっていく。
そんなときに自社の成長を加速させてくれる事業提携と同時に資本提携を考えてくれる先は、これほどありがたい存在はない。その会社が時代の寵児と言われる人であればなおさらだ。さすがに弱々しい乙女のようではなく、むしろ英雄そのものなのだが、「自分は君に賭けている」とでも言われれば、有頂天にもなる。そして全面的に信頼をしてしまう。
その時に考えて欲しい、その人の真意を。自分の能力を高く買ってくれているのは確かだが、そんなにうまい話はあるのと。ある会社では最初にある程度の資本を持っていかれて、営業機能もその事業提携先に委ね、あれよあれよという間に、ここで勝負をかけようとの言葉に乗せられ、いつの間にかに株式の過半数以上を取られてしまう。
株式会社の正義は唯一、持ち分を持っている人の言い分が通るという世界だ。仮に創業者で、今までの功績があると言ったところで、新しく力を持った株主からしてみれば、その創業者がいなくても、ビジネスモデルさえば、収益を上げられると思われてしまったら、どうにもなりはしない。
まさに最初に油断させて、城門の扉を開き、後で豹変して脱兎のように迅速に行動する。そして、脱兎のごとく行動され、その急激な変化に対応できずに、思い通りにされてしまう。もっともこんな投資先は中々見受けることがなく、投資したと思ったら、実はクズだったという事例の方が多い。とんだババを引かされてしまった。というものだ。むしろその投資先が乙女のように麗しく、ついつい手を出してしまったら、すっぴんはとんでもなく化け物だったというイメージだろう。買収する側もされる側も、見かけがいいものには注意した方がいい。相手の真意を掴むのが先決だ。
[教訓]
〇相手を油断させて、ハートと掴んだら、スピードと変化で成果をものにせよ。
〇外見にとらわれず、表面的な言葉に騙されず、真意を確認し、本質を見よ。