軍政に曰く、言とも相聞こえず、故に金鼓を為る。視すとも相見えず、故に旌旗を為る。夫れ金鼓・旌旗は、人の耳目を一にする所以なり。
(現代語訳)
兵法書が言うには、口で命令しても遠くまで聞こえないから、鐘や太鼓で伝達する。手で指揮しても遠くまで見えないから、旗や幟のぼりを使用する。金鼓・旌旗は耳目を統一するためのものである。
(解説)
総大将が進めと言って、軍配を振っても部隊の末端までは見えないから、ほら貝や太鼓や鐘の音を鳴らして、進軍の合図とする。ちなみに読み方は金鼓(きんこ)、旌旗(せいき)である。また、人の耳目を一にするというのは、兵士の注意を一点に集中させるという意味を持っている。
今の世の中では、消防訓練を行うときは館内放送、仕事上の指示については、電話、メール、あるいはLINEのようなSNSツールでも可能だろう。そういった通信技術がない時代には、鐘や太鼓、旗は必須だったであろう。むしろ、技術的なことではなくて、会社全体が一つの方向性を持つために必要なのが、経営理念、キャッチコピーやロゴといったものであって、コーポレート・アイデンティティー(CI:Corporate Identity)ということができる。これは企業文化を構築し、特性や独自性を統一したイメージ、デザインや分かりやすいメッセージであり、企業戦略の一つとなっている。
この構成要素は、①理念の統一(Mind Identity)、②行動の統一(Behaivior Identity)、③視覚の統一(Visual Identity)である。会社名だけでなく、会社のロゴは名刺、社員証、もちろん会社の看板にも入っているが、従業員の帰属意識をもたらす。そして社内の人間だけでなく、顧客や取引先に対しても、自社であることを視覚で伝えることができる。また、会社のイメージが良ければ、そのロゴのイメージも良くなる。
キャッチコピーは企業のブランドイメージだけではなく、商品のブランドイメージとしても顧客に分かりやすいイメージを伝える。わかりやすい商品はやはり売れる。そして営業もしやすい。企業スタッフの行動の統一感もさることながら、ブランドイメージを確立できた商品は、顧客のハートと一直線につながる。つまり注意を一点に集中させることができるのだ。社会的に有名であり、訴求力のある商品を販売していることは、それを扱っている従業員にとっては誇りである。社外に対してもさることながら、社内のスタッフに対しても自社に対する愛着や誇りを持ってもらうことが何よりも重要なのだ。そのために必要なのがコーポレート・アイデンティティーなのである。
[教訓]
〇コーポレート・アイデンティティーは、理念と行動、視覚の統一感を図り、会社とスタッフ、顧客を一直線で結ぶ。
〇コーポレート・アイデンティティーは、会社への帰属意識を高めることにつながる。