故に兵を用うる法は、高陵には向かうこと勿かれ、丘を背にするには逆うること勿かれ、絶地には留まること勿れ、佯北には従うこと勿かれ、鋭卒には攻むること勿かれ、餌兵には食らうこと勿かれ、帰師には遏むる勿かれ、囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿かれ。此兵を用うるの法なり。
(現代語訳)
軍隊を運用する場合、高い丘の上に布陣している敵軍に向かって攻撃してはならない。丘を背にして攻撃してくる敵軍を迎え撃ってはならない。険しい地形に長く布陣してはならない。偽りの退却につられて深追いしてはならない。鋭い気勢を持つ軍隊と戦ってはならない。こちらを誘うための餌となる軍隊と戦ってはならない。敗北の決断をして帰国する軍隊をとどめてはならない。四方を包囲した敵には一か所退路を開けておき、進退窮まった敵を追い詰めすぎてはならない。これが軍隊運用の法則である。
(解説)
高い丘に布陣している敵軍と戦うな、というのは、高い丘にいる軍隊からの攻撃の方が、高い位置からのエネルギーを受け、矢を放つのも、石を投げるのも、兵の突撃に関しても、高地からの攻撃の方が有利に働くからと言われる。偽りの退却軍や囮を追っていき、挟撃されることもある。佯北とは、敗れたふりをして偽りで逃げるという意味だ。そして窮鼠猫を噛むということわざもある通り、敵を追い詰めすぎるなと言っている。
ビジネスの競合の方が、今、勢いがあるということはよくある話で、勢いのある相手と戦っても勝ち目はない。勢いがいつまでも続くということもないから、その勢いを軽くいなして、当面は防御に回るというのが得策になる。少しぐらいお客を取られるのは覚悟の上だ。しかし自社のロイヤルカスタマーが奪われそうだとなれば話は異なる。それもまた状況による。
四方を包囲した敵はもはや逃げ道がない。しかしここであえて殲滅戦を行うことなく、逃げ道を作ってやるのもまた必要という。これには二つの意味がある。もう助からないと敵が思うと死なばもろともというように火事場のくそ力を出させてしまう場合がある。これは味方の防御にとって厄介であるということ。もう一つは勝者として余裕を持てということだ、必要以上に恨みを持たせると、どこでその遺恨が発火し、その後の事業運営に妨げになるかもわからない。だからあえて逃げ道を残してやって、恩を売っておけということだ。昔、敵だったとしても、必ずどこかで恩となって返ってくることもある。
[教訓]
〇自社と競合の勢いを見極めてから仕掛けよ。勢いがある相手とは戦うタイミングを計れ。
〇競合が攻めてきたときに、こちらの準備ができていなければ軽くいなせ。
〇勝者は敗者に逃げ道を残してやれ。一つは相手に火事場のクソ力を出させないこと。もう一つは恨みを買いすぎないこと。