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上司と部下に信頼があれば、部下は命令に素直に従う

それ将は専ら生殺の威を持す。必ず殺すべきを生かし、必ず生かすべきを殺し、忿怒詳かならず、賞罰明らかならず、教令常ならず、私をもって公となす。これ国の五危なり。賞罰明らかなら座れば、教令従われざるあり。必ず生かすべきを殺さば、衆姦禁じられず、必ず殺すべきを生かさば、士卒散亡す。忿怒詳かならざれば、威武行われず、賞罰あきらかならざれば、下、功を勧めず。政教当たらざれば、法令従われず。私をもって公となさば、人に二心あり。故に衆姦禁じられざれば、久しゅうすべからず。士卒散亡すれば、その衆必ず寡し、威武行われざれば、敵を見て起たず。下功を勧めざれば、上彊輔なし。法令従われざれば、事乱れて理まらず。人に二心あれば、その国危殆す。

(現代語訳)
将軍は部下に対して生殺与奪の権利を持っている。そのため、次のような過ちを犯してはならない。
(a) 罪ある者を見逃し、罪なき者を罪に陥れる。
(b) いわれなき怒りを爆発させる。
(c) 賞罰の基準がいい加減。
(d) 命令を絶えず変更する。
(e) 公私を混同する。
これらは国を危険にさらす。それは賞罰の基準がいい加減であり、どんな命令を下してもその通り実行される保証はない。罪なき者を罪に陥れるなら法を破る者が続出する、罪ある者を見逃すなら、兵士の離散を招く。いわれなき怒りを爆発させるなら、威令の貫徹を期しがたい。賞罰の基準がいい加減であれば、部下は功を立てようとしない。命令の変更が頻繁であれば法令を守らせられない。公私を混同すれば、部下は二心を懐く。
法を破る者が続出すれば、国の存立すら覚束ない。兵士が離散すれば軍が成り立たない。将軍の威令が貫徹されなければ部下は敵を見ても戦意が生じなくなる。部下が功を立てなくなれば、強力な支えがなくなる。法令が守られなければ、収拾のつかぬ混乱を招く。部下が二心を懐けば国は滅亡寸前の瀬戸際に立たされる。

(解説)
生殺与奪の権利(せいさつよだつのけんり)とは、他人に対して「生かす」か「殺す」かを選択できる権利のことである。これは物騒だが、今のビジネスにおいてもこの権利はあるが、上司が部下に対して、給料を上げ下げする、役職を上げ下げする、あるいは退職を促す等の権利である。この権利を持つことによって、部下は上司の命令に絶対服従をすることになる。

余り理不尽なことを命令されれば、辞めればいいということになるが、次の転職先が確保できるような能力や経験がないと、何が何でも従わざるを得なくなるだろう。従来のように終身雇用であれば、人材の流動化が激しくないが、現代の社会のように人材の流動化が当たり前のようになってくると、生殺与奪の権利は、徐々に権力を失ってくるように思う。

むしろ、この上司の命令ならば聞きたいと思わせるような信頼関係を作っていかなければならないと思う。これはきれいごとでもあるから、部下によっては厳しく当たらなければならない場合もあるだろう。生殺与奪の権利とは上司が部下に持つ伝家の宝刀であって、めったに振りかざすものではない。

[教訓]
〇命令は、上司と部下との信頼関係の熟成の先にあるべき。
〇生殺与奪の権利は上司が部下に持つ伝家の宝刀であって、むやみに使うものではない。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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