それ兵権は、これ三軍の司命にして、主将の威勢なり、将よく兵の権を執り、兵の要勢を操りて、群下に臨まば、例えば猛虎の、これに羽翼を加えて四海を翺翔し、遭うところに隋いてこれを施すがごとし、もし将、権を失い、その勢を操らざれば、また魚龍の江湖より脱するが如し、游洋の勢を求めんと欲すれども、濤に奔らされ浪に戯れて、なんぞ得べき。
(現代語訳)
軍権を掌握することが、全軍を自由自在に使いこなして、将軍の威信を確立するカギである。それゆえ将軍はしっかりと軍権を掌握して部下に臨まなければならない。そうすれば、猛虎に羽をはやしたものである。まさに鬼に金棒で、思い通りに軍を動かし、力強く羽ばたくことができる。
もし将軍が軍権の掌握に失敗し、軍を思う通りに動かせなければ、自ら離れた魚のようなものである。自由自在に泳ぎたいと思っても、波に翻弄されるだけである。
(解説)
上司が権限を持てなければ、部下は言うことを聞かない。しかし権限を持つということは即ち責任も負うということである。権限と責任は一致しているべきだ。これを権限責任一致の原則と呼ぶ。仮に権限と責任が一致しないときがあるとする。権限が責任より大きい場合、十分すぎる権限があるため、無責任な行動や予算の無駄遣いが発生する。逆に、責任が権限よりも大きい場合、権限がないため動きが取れず、一定のパフォーマンスが上がらない場合がある。
後者の場合、つまり責任が権限よりも多いとき、やるべき、あるいはやらなければならないという責任だけを押し付けられて、権限が与えられていない場合、最終的な責任は組織長や上司が負うことになるが、このようなときには、権限を持っている人を動かすという方法が考えられる。つまり上司を動かすということだ。彼らは最終的な責任を負うため、サポートを要請すれば力を貸してもらえることだろう。上司が忙しくてサポートしてくれなくても、相談をしておけば、部下自身のリスクを軽減することができる。責任だけ押し付けられるというのは、非常にストレスのある仕事ではあるが、その責任があることをいいことに、組織を動かすことができるため、良い経験となると思われる。
また、権限を持っていても、上司になった人が多少気が弱い人で、権限を行使しきっていないときがあるが、そのさらに上の上司が注意してあげるしかない。
[教訓]
〇権限と責任は組織上一致させよ。
〇権限が課された責任ほど与えられていない場合には、上司に相談するか、上司にサポートしてもらおう。