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経営者は二面的に思考せよ

思慮の政とは、近きを思いて遠きを慮るを謂うなり。それ人に遠き慮りなければ、必ず近き患いあり。故に君子は思うことその位を出でず。思いとは謀を正すなり。慮とは事の計を思うなり。その位にあらざればその政を謀らず。その事にあらざればその計を慮らず。大事は難きより起こり、小事は易きより起こる。故にその利を思わんと欲すれば、必ずその害を慮り、その成るを思わんと欲すれば、必ずその敗るるを慮り。ここをもって九重の台は、高しといえでも必ず壊つ。故に高きを仰ぐ者はその下を忽にすべからず、前を瞻る者はその後を忽にすべからず。ここをもって秦の穆公は鄭を伐ち、二子、その害を知る。呉王は越女を受けて、子胥、その敗を知る。虞は晋の壁馬を受け、宮之奇、その害を知る。宋の襄公は兵庫を練りて、目夷、その負くるを知る。およそこの智は思慮の至りにして、明というべきなり。それ覆陳の隋い、陥溺の後を追いて、もってその前に赴かんとするも、なんぞこれに及ぶにあらん、故に秦は覇業を承けて、堯・舜の道に及ばず。それ危うきは安きより生じ、亡は存より生じ、乱は治より生ず。君子は微なるを視て著るるを知り、始めを見て終利を知る。禍、従い起こるなし。これ思慮の政なり。

(現代語訳)
政治に当たる者は、身近なところに思いを致し、遠い将来のことにまで対策を考えておかなければならない。遠いところまで見通して対策を考えておかないと、近いところで足を救われる。君子は上司の職分の事まで気を回さない。他人に口出しをする前に、自分の職責を果たそうとする。遠い将来の計画を案ずる前に、当面の問題に取り組む。
重大な問題は解決が難しく、些細な問題は解決が容易である。しかし問題を解決する場合、一面的な態度で臨んではならない。利益を得ようとする場合、損失も考えておくのだ。成功を求めるなら、失敗したときのことも考えておくように。
九重の台は高いが、土台を揺るがされれば必ず壊れる。従い、高きを仰ぐ者は土台を無視してはならない。同様に、前に進む者は、前方に気を取られ、後方に注意することを怠ってはならない。高きを仰いで前方に気を取られれば失敗を招く。以下例を挙げる。
(a) 秦の穆公が鄭を討ったとき、百里奚と蹇叔の二人の重臣が「古来、千里も先に遠征軍を送って勝利を収めた者はない」と言って諫めたが、穆公は聞かずに遠征軍を送り大敗した。
(b) 呉王夫差は越王句践を会稽山に追い詰めたが、越王から美女や宝を受けた重臣の口利きにより、句践に止めを刺さずに兵を引いた。このとき参謀の伍子胥が「今、句践に止めを刺さなければ後悔する」と諫めたが、夫差は聞き入れなかった。夫差は後に嘗胆して復讐を誓った句践に敗れた。
(c) 晋が虢を討とうとして、隣国の虞に壁玉と駿馬を贈り、軍の領内通行の許可を求めてきた。虞の大臣宮之奇が「虞と虢の関係は唇と歯のようなもの。虢が滅ぼされれば虞も危険にさらされる」と諫めたが、虞王は聞き入れず、晋は虢を滅ぼした帰路、虞まで滅ぼした。
(d) 宋の襄公は小国でありながら、諸侯の盟主になろうと大望を抱いた。それを知って公子の目夷が「小国の分際で覇者になろうとは禍のもと」と諫めたが、襄公は聞かなかった。その結果、襄公は、楚との争覇戦に敗れ、その時受けた傷が下で世を去った。

以上の百里奚、蹇叔、伍子胥、宮之奇、目夷は将来のことまで見通す先見の明があった。しかし、肝心の足元が崩れていたのでは将来のことを見通しても何にもならない。秦の始皇帝の覇業が、堯、舜の政治に遠く及ばない理由もそこにあった。危は安から生じる。亡は存から生じる。乱は治から生ずる。君子は兆候を見ただけで、これから起こる出来事を察知し、始めを見ただけで終わりを知ることができる。だから不幸な事態を避けることができる。

(解説)
目先の事ばかり考え、将来のことは考えなかったり、逆に将来の事ばかり考えて、目先のことは考えない、というような一面的な考え方はよろしくない。

問題を一面的に、主観的に、表面的に見ると、物事の本質に触れることはなく、まさに木を見て森を見ず、逆に森を見て木を見ずということになる。

物事は最低でも二面的思考を重要とする。売上だけが上がる事業はない。コストをかけて初めて売上が上がる。成功しかしない事業はない。場合によっては失敗することもある。

昔間抜けな起業家にあったことがあり、中長期的な資金は問題ではない、ここ短期的な資金さえ乗り切れば、と言っていた。話を鵜呑みにすると、中長期的な資金はある投資家から出資してもらえることが決まったそうなのだ。結局、その投資も起業家の思い込みと期待であって、出資は受けられなかったのだが、短期的な資金でアップアップする企業というのは、よほどの大口スポンサーでも見つかれば話は別だが、その短期を乗り越えられずに終わる。

まさに足元が崩れているために、将来を見通しても何の意味もないという状況だ。起業家は足元の生活費を確実に確保しつつ、中長期的な資金の手当てにも動く、つまり二面的に思考すればいいのではなくて、二面的に行動を取ることが重要である。

別の間抜けな起業家は、そんな目先のお金を追っていたら、大きな資金を得られなくなると言っていたが、足元を固めないと将来もないんだよ、ということに全く気付くことがない。そういう人物が日の目を見ることは残念ながらない。

[教訓]
〇物事は二面的に思考せよ(デュアル・シンキング)。
〇物事は二面的に行動せよ(デュアル・アクション)。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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