それ兵を用いるの道は、これを尊くするに爵をもってし、これを瞻るに財をもってすれば、士至らざるなし。これに接するに礼をもってし、これを厲ますに信をもってすれば、士死せざるなし。恩を蓄えて倦まず、法、一を画くごとくならば、士服さざるなし。これに先んずるに身をもってり、これに後るるに人をもってすれば、士勇ならざるはなし。小善は必ず録し、小功は必ず賞すれば、士勧まざるはなし。
(現代語訳)
部下に臨む将軍の心得は次の通り。
(a) 爵位、高禄を保証する。こうすれば、有能な人材が馳せ参じてくる。
(b) 礼と信(約束を守る)をもって接する。こうすれば、部下は死をも辞さない。
(c) 恩を施し、法の適用に公平を期す。こうすれば部下は喜んで服従する。
(d) 率先して事に当たる。こうすれば部下もしり込みする者がいなくなる。
(e) 善行はどんな小さなことでも記録に止め、功績はどんな小さなことでも賞賜をする。
こうすれば部下は自ら進んで事に当たる。
(解説)
管理というものの本質は、人を縛ることではなく、人が進んで働くような状況を作り出すことである。すなわち部下がやる気を起こすような状況を作ることなのだ。
以前の社会では終身雇用を原則会社が保証していたために、従業員が会社に対する忠誠心を引き出しやすい状況にあった。しかし今は終身雇用の前提が崩れ、企業が従業員を選ぶだけではなく、従業員が企業を選ぶ関係になった(但し実力者のみ)。人材流合性が激しい時代に在っては、人材は常に枯渇する状況にあり、一度採用しても、その企業に所属する魅力がないと従業員は離れていってしまう。そのため、従業員のモチベーションをマネジメントできる企業が、これからの時代に生き残っていく可能性が高いと言える。
基本的にモチベーションとは、目標の魅力とその達成可能性の掛け合わせたもので決まる。その目標を手にしたときに、従業員がどれだけいい思いができるか、そしてその目標が適切な努力で獲得可能かだ。その二つを企業が用意できるかどうかがポイントとなる。
目標の魅力の作り方は色々あるが、仕事の選択肢を多く用意して、それを本人に選ばせるというのが良い。会社の都合でやってくれという仕事はやむを得ないが、そんなことばかりだとやる気をなくしてしまう。
お客様対応が苦手な人はさておき、お客様と対面しているとお客様が喜んでくれたらすごく嬉しい。だから大企業になればなるほど、細分化された仕事に魅力を感じられなくなる人もいる。その人の仕事がどのように、会社を通じて社会のために役立っているかということを上司が教えてあげられると良い。
人材の流動化を前提にした組織というものが望まれ、安定した地位や出世コースを歩む人以外で、そこでしか得られないスキルや実績を求める人が増えてくると思われる。そのような人物には、各人が知識や実績を得られる機会を提供することが必要となってくる。もはや従業員もお金を払っているとはいっても、ある意味で顧客だという視点が必要になってくるのかもしれない。
[教訓]
〇モチベーションを管理できる組織が今後生き残れる企業になる。
〇モチベーションは目標の魅力とその目標の達成可能性の掛け合わせたもので決まる。