故に軍は奇計をもって謀となし、絶智をもって主となし、よく柔によく剛に、よく弱によく彊に、よく存しよく亡し、疾きこと風雨の如く、舒かなること江海のごとく、動かざること泰山のごとく、測り難きこと陰陽のごとく、窮りなきこと地のごとく、充実せること天のごとく、竭きざること江河の如く、終始すること三光の如く、生死すること四時のごとく、衰旺すること五行の如く、奇正あい生じて、窮むべからず。故に軍は糧食をもって本となし、兵は奇正をもって始めとし、器械を用となし、委積を備えとす。故に国は貴く買うに困しみ、遠く輸すに貸し、攻めは再びすべからず、戦いは三度すべからず。力を量りて用い、用いること多ければ費ゆ。益なきを罷去すれば、国、寧んずべし。能なきを罷去すれば、国、利とすべし。
(現代語訳)
軍事行動の際には、奇計と智謀を働かせ、剛柔の作戦を立てなければならない。暴風のごとく迅速に、揚子江や海洋のごとく悠然と、泰山のごとく構えて動かず、陰陽の如く意表を突き、大地の如く尽きることなく、天の如く力に溢れ、揚子江や黄河の流れの如く繰り出し、三光(日、月、星)、四季、五行の循環するが如く継続的に仕掛けなければならない。このように奇襲作戦と正攻法を組み合わせた作戦行動を取れば成功する。
また、武器や食料の調達が条件であり、それらを買い付けると、物価の高騰を招き、人民を苦しみを強いる結果となるので、十分な注意が必要である。また、遠征には、食料等の輸送の問題が生じる。その点を考えて、攻撃は一回限りに止め、三回、四回の連戦は避けるべきである。常に国力の限界を考慮にいれ、無駄な国力の損耗を避ける必要がある。そして無駄な損亡を避け、無能な人物を登用しなければ、国は利益となる。
(解説)
ビジネスにおいても正攻法と奇襲を織り交ぜるべきである。さて、どのようなものが奇襲であったのか。奇襲というのは、競合が準備をしておらず、油断しているところを攻撃することである。
20世紀末は日本のPCと言えば、NEC(PC-98シリーズ)が圧倒的なシェアを誇っていた。また、会計や管理、設計等の業務アプリケーションの資産をPC-98上でビジネス展開をする数多くのソフトウェアベンダーがいて、国内市場は盤石であった。それがマイクロソフトのWindowsとそれを搭載したIBM-PC互換機によって98シリーズは市場から姿を消してしまった。
Amazonに関しても、当時はBarnes & Nobleという書店チェーンが幅を利かせており、彼らの優位性は豊富な品ぞろえで地域の小さな本屋を圧倒し、栄華を誇っていた。そこにAmazonはさらに豊富な品ぞろえで対抗してきた。
また、アメリカではタクシー業界がUberの奇襲の餌食になった。タクシー会社は膨大な車両や整備拠点、ドライバーを必要とするから、新規参入はいないだろうと高をくくっていたら、自分の車を使ってドライバーや利用客を相互に評価してマッチングするというビジネスモデルで奇襲を仕掛けた配車サービスはあっと言う間に市場を席巻した。
この奇襲を成功させるのは、最低限必要な戦力、補給能力、そして作戦計画力である。
[教訓]
〇ビジネスにおいても正攻法と奇襲を織り交ぜるべきである。
〇奇襲を成功させるのは、最低限必要な戦力、補給能力、そして作戦計画力。