「キルヒアイス、現在、全体の戦況はどうなっているのだ?」
「ご無理な質問です、ラインハルトさま」・・・
最も有能であろう赤毛の若者が、このときは、はっきりと不可能を口にした。
全体の戦況という代物が、もし存在するとしても、それは一瞬ごとに変化し、把握したときには、既に時代遅れとなっている。例え正確に把握したところで、主将たるリューネブルク准将に全て知られるこことなり、彼を利するばかりか、ラインハルトを不利に追い込みかねない。
・・・
「ラインハルトさま、敢えて申し上げますが、この際は目前の戦場にご専念下さい。そして個人的な武勲をお立てになったら、さっさと撤退なさるがよろしいと存じます。大局など、お気になさいますな」・・・
「キルヒアイス、お前が利己的を進めるとは思わなかった」
(解説)
ラインハルトは、最初から自分が上役だったらどう動くべきかを想定して行動をとっていた。そのつもりでキルヒアイスに全体の戦況を質問したが、キルヒアイスも現場にいたわけで、全体の戦況などわかろうはずもない。
現代社会において、状況は刻一刻と変化する。正直先が読めない、どうなるかわからないということだらけだ。上記で全体の戦況がわかっても、その時には既に時代遅れになっているというのは、全体の戦況がわかったときが何らかの結果でしかない、過去のことの情報の羅列である、ということなのだ。それ故、全体の戦況が正確に把握できる状況とは、既に誰かが把握しきった状況か、誰でもわかるような状況であるから、一歩先んじるような状況にはない。
経営者は、全体の戦況を正確に把握することではなく、正確でなくてもいいから、概略を把握し、その概略を元にして、戦略を構築し、いち早く行動を起こさなければならない。完全に把握していないわけだから、もちろん正確ではない。思い違いもあるだろう。都度、新しい情報を入手して、戦略に修正をかけていけばいい。
戦況の概要も見当がつかないときには、目の前の現場で起きたことを淡々と処理していくしかない。概要を把握してから戦略を構築するのでも遅くはない。案外、自分にとっての利益はどうなんだ、と利己的に判断した方が、良い結果を導くこともある。
(教訓)
〇全体像を正確に把握するのではなく、概略を掴んで戦略を立て、他社よりも一歩先んじろ。
〇概略もつかめないときは、自分の利益だけを考えて、目の前のことをコツコツこなせ。利己的に考えた方が良い結果が出る可能性が高い。