聖智に非ざれば間を用うること能わず。仁義に非ざれば間を使うこと能わず。微妙に非ざれば間の実を得ること能わず。微なるかな、微なるかな、間を用ざる所無きなり。
(現代語訳)
間諜からもたらされた多くの情報を分析し、その中から真に価値ある情報を見極め、決断を下すためには、突出した高度な知性が必要であり、凡庸な君主や将軍では、せっかくもたらされた情報を活かすことができない。また、死線をくぐって情報を入手してくる間諜に対し、深い思いやりの心を持つ必要がある。彼らを単なる使いゴマと軽視し、彼らの苦労に思いをいたすことができなければ、間諜を使う資格はない。彼らはやがてそうした君主や将軍を見限ることであろう。さらに、間諜がもたらす情報の、微妙なニュアンスを察知できなければ、情報の裏に潜む真実を理解することはできない。情報は一つの現れであり、その背後に何があるのかを深く洞察しなければならないのである。何と微妙なことか。間諜はあらゆる局面に活用できるのである。
(解説)
スパイを上手く使いこなせない将軍の条件が3つある。
スパイは命がけで情報を収集してくるわけだから、スパイから情報を聞き出す方も、それなりの能力を持たなければならないし、この人になら話をしたいと思わせる魅力も必要だ。
また、後半部分ではあるが、諜報工作は微妙な(捉えがたい)問題であるが、この本質を理解すれば、これ以上に優れたスキルはない、と言っている。スパイから情報を聞き出す能力を持っていれば、他にいくらでも多くの場面で応用が可能ということだ。
つまり、上司と(社内の)部下の関係でも情報の聞き方という意味では応用できる。まずは上司の方が深い洞察力や思慮があること。上司が「〇〇って何?」と聞くだけだと、部下は「ググレカス!」と内心思っているだけだ。それを「競合他社が〇〇を活用しているそうだけど、うちが使うとメリットあるのかい?」とでも聞けば、ググるだけではダメだから、部下はそれに対して答えようとするだろう。質問が的確であれば、部下も的確に答えやすい。もちろん、この上司のために答えてあげたいと思わせるような人格者である必要があろう。無茶ぶりばかりしてきて仕事を増やすカスのために誰が真剣に答えてやるものかと思ってしまう。また、質問も鋭いと、部下もいい加減な仕事ができなくなるから、それだけ真剣に調査しようとするだろう。
スパイが命懸けで情報を仕入れてくるのだから、命懸けに近い誠意が君主や将軍には求められる。そして真剣さや真摯さが、部下に対する質問にも求められる。信頼関係が正しい情報を聞き出すのに必要ということだ。
[教訓]
〇情報収集には的確な指示が必要
〇情報収集にも信頼関係の熟成が必要。