(御史大夫張淑は)文帝の時、刑名の学を修めて太子に仕えた。・・・訴状の上申に対しては、却下すべきものは却下し、却下してならないものは、やむを得ないこととして、被告のために涙を流し顔を背け、封をして上奏した。彼の他人に対する愛情はこのようであった。
「君子は言語において訥弁で、実行において迅速であるのが望ましい」
(解説)
第一段目は、張淑の人格を伝えたものである。一々訴状を受け取ったときに、犯罪者に対して情を持っていては疲れてしまうと思うが、常に同情する態度を示すということは、人心を捕える上では必要な態度であろう。法律を的確に公平に適用することはもちろん大切ではあるが、なぜそのようなことをしてしまったのかを、その人の立場で考えられるようになれば、制度の改革もできる。裁判官ではなく、マネジメントとして必要なことである。より良い制度を作ることができるからだ。
第二段目において、訥弁には、直接良い意味はない。これは「言葉がつっかえて、話し方がスムーズでないこと」である。要するに話下手なことを言うが、この逆語は能弁であり、これは「弁舌に優れていて、話が上手なこと」を言う。リーダーとしては、能弁な方がいいだろうと思うものだ。しかし、口下手であれば、嘘をつくことができず、正直でいられる。
また、他人から非難を受けても何も言い訳はしない、というか口下手にはうまく表現できない。時代的には讒言が過度なものであれば、命を奪われてしまうようなこと(死刑)にもなりかねないが、そのような時代でない限りは、相手の事にいちいち反論しなければ、単なる悪口しか受けずに済んだのであろう。中途半端な能弁だから、争いごとになるのだ。とにかく、言葉よりも実績で見せるべきである。
訥弁の例を挙げれば、「訥弁だが熱意は感じられる」「訥弁だが誠実さと真面目さが伝わってくる」と言う言い方もある。もちろんネガティブな表現もできるが。上記ポイントは、言葉足らずだが、実行は迅速かつ的確であるというところだ。言葉下手で、何もしなければ評価はしようがない。ある意味、無言実行ともとれる。
[教訓]
〇規則違反を犯した者がいれば、そのルールの適用は公正にすべきだが、どうして違反したかをその者の立場で考えられるようになれば、より良い制度を作ることができるであろう。
〇口下手でも行動は迅速かつ的確に。