ローエングラム公に軍事的覇権を握らせるためには、フェザーン回廊の通行権はいずれ与えられてしかるべきものではあるが、その時機は慎重に選択されなくてはならないし、相応の代価を支払わせての上でなければならない。早売り安売りをする必要などないのである。
ルパートとしては、ローエングラム公が自由惑星同盟軍の手によって甚大な被害を受けた後にこそ、彼に対して「フェザーン回廊通行権」の餌をちらつかせる効果がある、と考えていた。恩を売り、こちらの立場を強化するには、相手が窮地に立った時救助の手を差し伸べることである。順境にある相手に恩着せがましく接近したところで、歓迎されるはずがない。冷笑の挙句無視されるならまだしものこと、こちらの下心を見透かされる羽目になっては、将来に禍根を残すことになるではないか。
(解説)
帝国側が同盟側に進行するためには、イゼルローン回廊を通らなければならない、そして真逆にあるフェザーン回廊は通ってはならない、というのがこの世界の不文律になっていた。
イゼルローン要塞には、ヤン・ウェンリーがおり、その要塞を通過するためには、帝国軍に相当の被害が出ることを覚悟しなければならない。そのために、フェザーン側としては、フェザーン回廊通行権を、帝国側への切り札として、使おうとしていた。「相応の代価を支払わせて・・・早売り安売り」をせず、ということだ。
交渉事は全てだが、交渉の上手さよりは、力関係で決まることがほとんどである。対等の立場であれば、もちろん交渉の上手さは必要である。そのため、交渉においては、相手が窮地になった時に救助の手を差し伸べるタイミングが重要と言える。困ってないのに助けてもらっても意味がない。欲しくもないものを売ってもらっても仕方がないのである。
需要と供給の関係から、不足しているものがあれば、その不足しているものには高い値を付けられる。なくて困っているのだから、理論的にはそうなる。もっとも、火事場泥棒のような、コロナショック時のマスク転売というのは、考え物だ。
お金がないときに、お金を貸す、あるいは出資すれば、高い利率で貸すこともできるし、より多くの持分を手に入れることもできる。
相手が困っているときに、困っているものをタイミングよく提供する。これがビジネスの基本と言える。
(教訓)
〇相手が欲しくないものを欲しくないときに、売ろうとしても相手は購入しない。
〇交渉事は、常にこちらが優位に立てるようにせよ。
〇相手が困っているときに困っているものをタイミングよく提供せよ。これがビジネスの基本である。